家族の暮らしやすさ確保
研修講師やセミナー講師を依頼されることがあります。起業セミナーに講師として呼ばれたときのことです。そのときは一経営者として起業の体験を話すように依頼されました。
しかし、起業した後のイメージが湧くように、ありのままに話そうとした結果、終了後には主催者から「ありのまますぎて、起業が不安になってしまったようです」との感想を頂いてしまいました。
子育て中の女性が経営者になったときの生活の一端をお見せいたします。
働いている女性は、産前6週、産後8週の産前産後休暇が与えられ、加入している健康保険から手当が支給されます。その後、子が1歳になるまでは雇用保険から育児休業の給付金が支給されます。
しかし、これらは休める女性のための制度です。個人事業主には、出産前後だからと3カ月半も仕事を休むことは難しいことです。現実は、出産前日まで仕事をするのはもちろん、産院にまでパソコンを持ち込んで仕事をしていました。予定日のおよそ2カ月前に出張先の茨城で初対面の方から「少しふくよかな女性だと思っていました。妊婦がこんなにアクティブに働くとは思えなかったので」と言われたのも、今ではよい思い出です。なお、育児休業給付金は雇用保険から支払われるものであるため、雇用保険の対象ではなく、自営業者や会社役員は支給を受けることができません。
乳児期は親が不在でも対応が可能ですが、子どもが少し大きくなると、母親が果たす役割も増えます。習い事の送り迎え、病児対応などの日中の活動は、時間を自由に使える私が対応することが多いです。
時間を自由に使えるとはいえ、業務量が減少するわけではありません。その結果として減少するのは私の睡眠時間です。繁忙期は、午後6時に帰宅、子どもの寝かしつけと同時に9時過ぎに就寝、夜中1時過ぎに起き、業務時間を確保するといった具合です。
男女共同参画社会への取り組みが推進され、日本経済団体連合会は「2030年までに起業の女性役員比率を30%以上にする取り組みを推進する」と公表しています。女性が役員になるためには、育児休業後も働き続ける必要があり、しかもその仕事はハードなものです。
しかし、これは女性の働き方だけの問題ではありません。現代は、核家族が増加し、子育ての多くの部分を夫婦だけで担わなければならない社会です。女性のワンオペ育児問題が注目され、子育てへの男性参加率が上昇し、子育て世代への対応が喫緊の課題です。ところが、子育てや介護などの家族問題は、仕事との両立が難しい課題です。
男女ともに働きやすい会社とはどのようなものなのか―。従業員だけではなく、その先の家族の暮らしやすさを確保するのも経営上の課題と言えます。
(北海道建設新聞2021年11月4日付3面より)