道内最大手の構造設計事務所であるさくら構造(本社・札幌)が、自社工法開発や社内制度改革に力を入れている。コスト削減効果のある自社工法は全国で実績を伸ばし、ニトリが石狩に建設中の大規模倉庫に採用された。また、意匠設計の下請けとして「きつい業界」というイメージがつきまとう中、部下が上司を選ぶ制度や業務遂行に支障が出た案件への支援体制を整え、従業員の働きやすさ向上を目指している。
自社の「技」 全国で実績
田中真一社長が2005年に前身の事務所を立ち上げ、翌年に現社名で法人化。従業員は構造設計1級建築士など有資格者を含め80人と業界有数の規模だ。東京や大阪、名古屋など全国各地に事務所を構える。RC造とS造を中心にマンションやホテル、店舗などの構造設計を手掛ける。
直近の売上高は約10億円。コロナ禍でホテル需要が止まったものの、ホームセンターやドラッグストアの案件が増えて全体では影響を受けなかったという。
直近3年間で複数の新工法を開発してきた。柱や梁を使わず壁体のみによって支える壁構造では、耐震性を保ちつつ材料費を抑えた「スマートウォール工法」や中高層用の「ハイウォール工法」を考案。鉄骨造の工場や倉庫、店舗に用いる「セレクトビーム工法」なども開発した。今は6種類の自社工法を有し、23年までに9種類に増やす計画だ。新工法の効果を確かめるため、札幌市北区北33条西2丁目1の15の本社北隣に実験棟を建てた。
自社工法の大きなメリットは材料コスト削減だ。費用を抑えられた過去事例を分析し、ノウハウをまとめて再現性ある形に整えた。施工業者を限定することもない。
1年間に扱う800棟のうち2割弱で自社工法が使われる。スマートウォールは200棟、ハイウォールとセレクトビームがそれぞれ数十棟と全国で実績を積んできた。
ニトリが石狩市内で建設中の物流倉庫でセレクトビーム工法が採用されたほか、あるホームセンター大手ではほとんどの店舗の構造設計を担う。
社内制度改革「部下が上司選択」
新工法開発と並行して、従業員のエンゲージメントや幸福度を高めるため、人事制度や働く環境の整備に力を入れる。背景には、意匠設計事務所などの下請けで納期に追われ、「きつい」というイメージがつきまとう構造設計業界の現状があるという。
制度の一例は、上司と部下のミスマッチングを減らすため、2年前に導入した上司選択制度だ。部下は希望する上司のチームに異動できる。ほとんどの場合で希望はかない、部下がいなくなり解散したチームもあるという。
また、案件のトラブル発生時にチームで担当者をサポートする仕組み「ドラゴンマネジメント」を取り入れた。また、コミュニケーションのための雑談推奨と業務への集中を両立させるため、ノイズキャンセリング機能を備えたワイヤレスイヤホンを社員に配布。オンオフをうまく切り替えてほしい狙いだ。
田中社長は「構造設計の地位やイメージを改善したい」と話す。今後はバックオフィス人材を増やし、人事面の従業員サポートをより強化する考えだ。
(北海道建設新聞2021年11月5日付面より)