釧路市内で講演
大樹町でロケットの射場整備を計画するSPACE COTAN(本社・大樹)の小田切義憲社長は10月29日、釧路工業技術センターで北海道スペースポート(HOSPO)構想などを主題に講演した。道内で培った「ものづくりのノウハウ」を宇宙産業で生かす事例を紹介。宇宙産業を地域の新たな基幹産業としてつなぐ必要性を説いた。
釧路商工会議所工砿業部会と北海道機械工業会釧路支部、釧路鉄工協会が講演会を主催。釧路製作所(本社・釧路市)が射場整備に関わっている縁から小田切社長を招待した。

宇宙産業の可能性を説く小田切社長
■世界で高まるロケット射場需要
世界の宇宙産業市場について、2019年時点で約39兆円に上り、40年には110兆円まで拡大が予測されると説明。今後は年間1000機を超える人工衛星の打ち上げ需要がある予想で、すでに約150社がロケットの開発や検討を進めている。このため「世界的に射場やロケットが不足する。日本としても宇宙産業に乗り遅れないように、取り組み始める必要がある」とHOSPOの重要性を強調した。
射場整備を計画する大樹町は世界的に見ても高いポテンシャルを有する。打ち上げ可能な気象条件である晴天率が高く、資材の輸送にも有利な位置にあるためだ。また、東と南側に太平洋が開かれ、人工衛星を効率的に任意の軌道上に投入でき、航空路や海上航路にも影響が少ないなどの特長がある。「大樹町はスペースポートとしてのポテンシャルが非常に高い地域」と高く評価した。
■ものづくりのノウハウが生きる
続いて長い年月をかけて培ってきた道内企業の「ものづくりのノウハウ」を、宇宙産業という新たな分野で生かす例を紹介した。橋梁やタンクなど鋼構造物の設計、製作、施工を得意とする釧路製作所は、ロケット開発に挑むインターステラテクノロジズ(本社・大樹)の宇宙ビジネスに18年から参画。垂直打ち上げ試験設備(架台)、エンジンテスト消音壁などの実験用鋼製部材を製造した。
精密金型部品加工メーカーのキメラ(本社・室蘭)は、室蘭工大とロケットのターボポンプインデューサーを共同で開発。ITと積み重ねた職人技を融合した独自システムで、高性能な部品加工を実現した。「地元企業が持つ熟練の技術を生かして参入できれば、地域の新たな基幹産業にできるし、企業がその分野のトップランナーになれる可能性だってある。今が宇宙産業に乗り出すチャンスだ」と展望する。
HOSPO構想の実現へ向けては課題が山積する。「ロケット打ち上げや運用について、現状では国際基準がない。また国内では約10の省庁との調整が必要で、海外と比べて競争に遅れている」と指摘。「宇宙庁などの体制、構造の整備に加え、宇宙産業に携わる企業や、人材の育成が急務」と体制構築の必要性を訴えた。
さらに衛星データなどの活用をビジネスに結び付けて、産業の裾野を広げることも重要な視点だと語る。「技術向上や構造整備、ビジネス面など宇宙産業全体の発展にチャレンジしたい」と意気込む。
(北海道建設新聞2021年11月5日付9面より)