食品表示法の改正後、さまざまな食品、飲料でカロリー(熱量)の表示が義務化され、お酒の表示にもカロリーが明記されています。例えば、ビールは100g当たり39・9kcal、日本酒は100g当たり104kcalです。このカロリーは何を意味しているのでしょうか。もちろん、お酒の成分が持っているエネルギー量で、アルコールと糖質、脂質、タンパク質が持つカロリーの総量を示しています。
通常、栄養素のカロリーは、取りすぎると体重増につながるのですが、お酒の場合は注意が必要です。アルコールのカロリーは、単純にアルコールを燃やしたときに生じるエネルギー量を表示していますが、アルコールが体内でどのくらいのカロリーとして働くのか、はっきりしたことが分かってはいないのです。
まず、細胞がアルコールをエネルギー源として直接利用する経路が分かっていません。アルコールは体内で分解されると酢酸が生じますが、酢酸をエネルギー源とする経路が証明されていないのです。もし酢酸がエネルギー源になるのなら、お酢を飲む健康法をしている人は太ってしまうはずですが、そうではありません。また、たくさん飲んだアルコールが体内で脂肪に変わる経路も証明されていません。
かつて、エネルギー所要量を超えるカロリー分をアルコールで置き換えた研究がありましたが、太ることはありませんでした。また、ちょっと厳しい話ですが、アルコール依存症になって、常にお酒を飲んでいる患者さんに肥満は起こらず、病状が進むとむしろやせ細っていきます。アルコールが脂肪にはならない証明みたいなものです。
では、お酒で太るといわれているのはなぜでしょうか。一つは、お酒を飲むときは必ず、何かの食べ物を一緒に口にしているからです。アルコールは気分を解きほぐし、前向き、楽観的にするので、食欲も増進され、つい多めの食事をしてしまいがちです。
また、三食と別にお酒を飲むときにはおつまみが必要ですが、それ自体が余計なカロリーなわけです。さらに、お酒に含まれている糖質はそんなに多い量ではありませんが、食事にプラスされる分ですからほぼ余計なカロリーといえるのです。
しかし、から酒を飲むのは、アルコール依存症のリスクが高まりますから、推奨できません。やはり、お酒はほどほどにということでしょうか。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)