深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 大橋建築設計室 大橋周二社長

2021年12月21日 12時00分

大橋周二社長

課題以上にメリット生む

 札幌に拠点を置く大橋建築設計室は分譲マンションの外断熱改修を推進している。新築時に多い内断熱に対し、外断熱化は大規模改修時に多い。民間物件はまだ少ないものの、札幌市内では学校や市営住宅に導入され、技術的なノウハウが広まりつつある。脱炭素化で建築物の性能が求められる中、大橋周二社長(68)に分譲マンション改修の在り方を聞いた。

 -外断熱の状況は。

 札幌市内に外断熱の分譲マンションは少なく、20棟未満だと思われる。2011年には道が一般向けのパンフレットを作製するなど推進を図ったが、思うように進んでいない。

 ここ2-3年は外断熱改修を検討する分譲マンションが増えつつある。いくつかの管理組合が2回目の改修で外断熱化を視野に入れていて、相談を受けている。外断熱を事前にインターネットで勉強した上で連絡をくれた。

 -外断熱の優位性を。

 メリットは大きく2つ。1つは断熱性で、住戸それぞれを断熱する内断熱と違い、バルコニーなどから伝わる冷気も含めて遮断できる。暖房による燃料消費量を20%近く削減し、室内の結露やカビなども減る。改修した住民からは「冬季のごみ捨ては共用部が寒くて上着を着ていたが、必要なくなった」との声も聞こえる。

 もう1つは長く住み続けるための安全性向上だ。タイル張りのマンションは、老朽化による外壁落下の危険性がある。市内では外壁タイルが落ち始めているのを見て、管理組合が物件に多額の賠償保険をかけているケースもあると聞く。

 その点、外断熱は建物の外側を断熱材で覆う工法のため、タイル落下の心配がない。各管理組合には安全性のメリットを強調している。躯体が雨風から守られるため建物の耐久性も向上する。

 外断熱の分譲マンションは沖縄にもある。海が近くても躯体を塩害から守れるほか、エアコンで冷やした内部の冷気が外に逃げない。真夏の沖縄でも涼しく過ごせる。

 -メリットが多いにもかかわらず、なぜ普及しないのか。

 課題はコスト。通常の改修に比べ1・5倍ほど必要だ。しかし、外断熱物件は長期にわたり建築物の質が下がらない。次回改修分の金額を前借りする形で銀行から3000万-5000万円ほど借り入れ、外断熱改修費に充てた実例もある。コストの問題はこうした資金運用のほか、将来的な普及による技術向上、資材大量生産で解決が見込める。

 一方で、外断熱改修に必要な左官や塗装などの担い手不足も課題だ。マンションの外観が変わるため、住民の4分の3の同意を得なければならない点も難しい。

 -普及に向けて必要なことは。

 建築に関する知識やノウハウのないマンション管理組合でも、使いやすい補助金があると良い。外断熱改修に関する正しい認識を広めることも重要だ。通常の改修より工期が大幅に延びるという認識を持つ管理組合や事業者もいるが、実際は1カ月程度の延長で済む。

 近年、札幌市が公共事業で新築する学校や市営住宅などの多くは外断熱仕様で、既存の市営住宅を外断熱改修したケースもある。このような自治体は全国的にも珍しい。

 公共事業で経験した事業者が、ノウハウを生かして民間物件の営業に取り組めば、分譲マンションの外断熱化が加速するだろう。そうなれば札幌市は日本一の外断熱先進地になる。

(聞き手・宮崎 嵩大)

 大橋周二(おおはし・しゅうじ)1953年、栗沢町(現・岩見沢市)生まれ。72年に美唄工高卒業後、東京都内や札幌の設計事務所勤務を経て92年に大橋建築設計室を設立。94年に法人化した。

(北海道建設新聞2021年12月15日付2面より)


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