精肉加工店と居酒屋を受け継ぐ 移住定住のモデルケースに
町内事業者の高齢化が進む上川町。後継者の確保が課題となる中、地域おこし協力隊を務める小山内力さん(36)、沙紀さん(36)夫妻は、町内の精肉加工店「山麓の四季」と居酒屋「呑」の店舗を受け継ぐ。2022年の春には飲食店を開業する予定で、実現すれば町の協力隊として2例目の事業承継となる。移住定住のモデルケースとして期待される。(旭川支社・中村 謙太記者)
町は19年度から協力隊の受け入れを始め、現在は14人が活動する。
協力隊員が事業を引き継ぐケースは20年にラーメン店の事業承継があり、小山内夫妻は町の協力隊として2例目となる。
小山内夫妻が町へ移住したのは20年2月。当初は山麓の四季のソーセージで、ホットドッグを作ろうと考えていた。
創業者の安部逸雄さん(67)は、精肉加工店と居酒屋を経営。肉の仕込みから腸詰め、パッケージまで全て手作りのソーセージは、ふるさと納税の返礼品にもなり、居酒屋は町民の憩いの場となった。
「息子は継ぐ気がなく、後継者をどうするか悩んでいた」。安部さんが体力面に不安を覚え、引き継ぎを考え始めたときに出会ったのが、協力隊として移住した小山内夫妻だった。「初めて見学しに向かった日に、引き継ぎの話が出てびっくり」と力さんは当時を振り返る。
当時の山麓の四季は、販売先も店の場所も知られていなかったため、通信販売やSNSによる情報発信を強化。口コミで広がり、札幌のイベントでは3日分の商品を2日で完売した。
安部さんが経営していた居酒屋も引き継ぎ、飲食店「マチガイネッエゾベース」を開く。「一つの事業にこだわらず、機会を見つけ幅広く挑戦するべき」という安部さんの思いを受け、山麓の四季のソーセージを使ったホットドッグを提供する。
飲食店が立ち並ぶ町の中心街は、年齢が70代を超える事業者が増えている。体調不良で休業する店舗も出ており、後継者の確保が課題だ。
その中で、協力隊員の精力的な活動が際立つ。10月にオープンした交流施設「PORTO」は、協力隊員が立ち上げた会社が運営する。中心街の理髪店を改修し、カフェを開業するなど、活躍が相次ぐ。
だが、小山内夫妻のように必ずしも事業承継がうまくいく訳ではない。産業経済課の高野尚課長によると、事業者が後継者を求めなかったり、希望者と理念や経営方針がかみ合わず、引き継ぎが進まないことが多いという。
課題は協力隊員の支援体制だ。見知らぬ土地で一から町民と関係を築くことは難しかったと小山内夫妻は明かす。「空き店舗の情報や、町内事業者と関わる機会などを設けてくれれば、地域活性化への動きがもっと活発になるのでは」と振り返る。
佐藤芳治町長は「人数が増え、隊員に寄り添うには現状の体制では限界がある」と指摘。協力隊員の支援強化に向け、組織再編を図りたいと考えている。
町は今後、協力隊員の事業承継をモデルに、後継者を求める事業者と事業承継の希望者をつなぐ制度作りに取り組む。商工会とも協力して、引き継ぎを効率的にできる仕組みを構築したい意向だ。
(北海道建設新聞2021年12月23日付1面より)