ワクチンには二つの働きが期待されます。一つは病原体に感染した後に、症状が進行して重症化することを防ぐことです。重症化しなければ死亡の危険性は限りなくゼロに近くなるからです。もう一つは感染自体を防ぐ効果です。感染を防ぐためには、ワクチンによって作られた抗体が、病原体が体に侵入するや否や取り付いて、病原体が体で増えること自体を阻止しなければなりません。
実はこれが意外と難しいのです。病原体が侵入するときは、ごく少ない数であることが多く、それを抗体が確実に捕らえるとは限らないからです。捕り損なうと、病原体がどんどん増殖して感染が成立してしまうのです。
特にウイルスの場合、ヒトの細胞に侵入するので、抗体が届かず、感染が成立するチャンスが増えるのです。インフルエンザワクチンの有効率が60%、新型コロナウイルスワクチンの有効率が95%というのは、この捕り損ないが一定程度あるということを示しています。そして、捕り損ないの結果で成立した感染をブレークスルー感染と呼んでいます。
ブレークスルー感染となっても、細胞で増えたウイルスが他の細胞に次々と取り付き、さらに増殖しようとしているときに、抗体がウイルスを捕らえるチャンスが生まれるので、感染が体で広がっていくことはかなり抑えられます。
したがって、重症化を防ぐことには有効で、ほぼ重症化を抑えられると考えられます。しかし、ある程度感染しているので、発熱やせきなどの症状が出て、ウイルスがいるため検査で感染が確認されることになります。
ただ、ブレークスルー感染では、抗体の効果により、症状が出ないぐらいに感染を抑え込めるが、完全にウイルスを除去できないという状況が生まれやすく、無症状感染者となるケースが結構あります。無症状ですから本人は感染の自覚がなく、しかし、ウイルスはいるので、他の人にうつす危険性が残るのです。
したがって、ワクチンを接種した人でも、マスクや手指消毒などを継続し、他の人にうつす危険性を避けるべきです。ワクチン接種完了から6カ月以上たつと抗体価が下がってブレークスルー感染の危険性が高まります。感染対策を忘れずに、そして、できるだけ早めに3回目の追加接種をお願いします。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)