深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り リューツー 小川信明社長

2022年01月21日 12時00分

小川信明社長

「研修生満足度」を高める

 札幌市白石区の流通センターで自動車整備業を手掛けるリューツーは昨年12月、外国人従業員比率を2割に引き上げる目標を掲げ、北洋銀行からESG(環境、社会、企業統治)投資を受けた。多くの企業が二酸化炭素排出削減など環境分野で目標を設定する中、外国人雇用を通した社会貢献が企業の価値として認められる先進例となった。経営の考え方を小川信明社長(46)に聞いた。

 ―社内に外国人は今どのぐらいいるのか。

 全従業員80人のうちフィリピンからの技能実習生が8人、ネパール、ミャンマー出身の正社員が1人ずつ、計10人の外国人がいる。今春も3人採用する。2030年には全90人中20人が海外出身者になる計画で、国籍もさらに増える見込みだ。

 ―外国人採用を始めたのは3年前と聞く。どんな経緯だったのか。

 今もそうだが、自動車整備業界に入ってくる日本人が少ないという課題があった。当社も新卒者獲得のために多くの学校を回ったが、雇ってもすぐ辞めてしまう。それで外国人に着目した。

 19年春にフィリピンから技能実習生4人を迎えたところ真面目によく働いてくれる。周囲からの評判も良く、その後も2期生、3期生と受け入れた。その間に、本州の自動車整備学校で学んだ留学生も採用した。外国人の存在が日本人にも刺激になり、会社全体が明るくなったと取引先から言われるようになった。

 ―最近の実習生送り出しはベトナムが圧倒的に多い。フィリピンから採る理由があるのか。

 彼らは英語を使える。フィリピンの公用語は現地語と英語で、私も英語を話すため意思疎通が容易だ。また、自動車整備用語は英語が多く、彼らもすぐに理解できる。

 技能実習について情報収集しているとき、マニラであいおいニッセイ同和損保グループが自動車整備の研修システムを立ち上げ、日本に実習生を送り出し始めたのを知って利用することにした。

 ―仕事以外の、異国で生活する上での苦労をどうケアする。

 幸い当社では国籍にかかわらず人間関係が良く、気軽に質問・相談できる状況にある。加えて企業としても社員同士の交流を促していて、例えば社内のサークル活動に支援金を出す制度がある。バスケ部、ミニ四駆部、ラーメン部などさまざまで、外国人も入って一緒に楽しんでいる。正月休みには私が自宅に外国人社員を呼んだり、みんなで温泉に行ったりもした。

 ビジネスでCS(顧客満足度)という用語が使われるが、当社にはTS(Trainee Satisfaction=研修生満足度)という言葉がある。TSが高まれば職場が活性化して生産性が上がる。外国人社員はSNSで自国に当社の存在を自然に広めてくれて、いい人材が当社を目指してくれる。面白そうな会社として若い日本人にも認識してもらえるだろう。

 ―ESGの目標達成で金利が下がるサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)を受ける。

 おかげさまで業績は順調だが、運転資金の余裕度をもう少し高めたいと考えていたときに北洋銀から提案があった。担当者に率直な考えを話したところ外国人雇用を指標に融資してもらうことになった。事後に担当者から、環境ではなく社会分野の目標設定が国内中小企業で初めてと知らされた。

 ―外国人社員の出身国に拠点を設け、ビジネスで進出する考えは。

 例えば当社のフィリピン支店を立ち上げるのも選択肢だ。現地で日本車の修理を安心して任せられる業者にはニーズがあり、雇用をつくれるだろう。応援で日本人の幹部候補を派遣して経験を積ませることもできる。実習生が帰国する時期が来たら具体的に検討したい。

(聞き手・吉村 慎司)

 小川信明(おがわ・のぶあき)1975年長野県生まれ、5歳から札幌で育つ。99年北海道工業大(当時)卒。欧州生活などを経て2003年、父が3代目社長を務めるリューツーに入社。20年1月から現職。

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