総合評価の賃上げ加点が波紋 措置継続で経営困難危惧

2022年01月21日 09時00分

道建協、国交省に疑問点提出へ

 国の発注機関が、賃上げする企業に対して総合評価方式で加点措置する制度が大きな波紋を呼んでいる。この加点が受注に大きく影響するため、多くの建設業者が賃上げを表明すると想定される一方、業界内では加点措置が長年続くことで経営困難となる業者が出てくることを危惧している。北海道建設業協会は、2月4日までに傘下の11建協から募った疑問点を取りまとめ、北海道開発局を通じて国土交通省に提出する予定だ。(建設・行政部 大坂 力記者)

現場で働く従業員を含めた企業の賃上げに対する加点措置が
大きな反響を呼んでいる

 政府は昨年12月、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」をまとめ、公共調達については2022年度以降に契約した総合評価方式の物件で賃上げを表明した企業への加点を盛り込んだ。

 北海道開発局が示した工事の標準配点例によると、施工能力評価型で2点を加算。他社と大きく点差を開くことができるため応札者の多くが表明すると予想される。

 ただ、この加点措置は今のところ期限は設けられていない。2年連続で賃上げを表明した場合、2年目は1年目で賃上げした金額を基準に、さらに賃上げしなければならない。

 賃上げの対象とするのは、大企業だと給与等受給者一人当たりの平均受給額、中小企業は給与総額。基本給のほかに手当や役員報酬なども含めることが見込まれる。建設業には現場手当や時間外手当を設ける企業が多いが、札幌市内のある土木業者は「受注が思わしくなく職員を現場に出すことが少なくなると給与総額はどうしても下がる。毎年決まって同じだけ受注できる会社はそれほどいない。手当や賞与を含めてとなるとかなり厳しい」と話す。

 賃上げを実行するには内部留保の活用や設備投資の抑制だけでは足りず、これからの公共工事の受注が鍵となり、工事価格の引き上げを求める声が出ている。前出の土木業者は「一般的な生産業は上げた分の給与を商品の価格に転嫁できるが、私たちは発注者の官積算の中で仕事をしているので発注者がそれに見合った価格に転嫁してくれない限り(賃上げする)出どころがない」と指摘する。

 18日に開催した自民党の公共工事品質確保に関する議員連盟の総会でも日本建設業連合会や全国建設業協会などから賃上げに対応するため、労務単価や技術者単価のほかに積算基準での現場管理費や一般管理費、低入札価格調査基準や最低制限価格の上限枠などを引き上げるよう求める意見が挙がった。

 北海道建設業協会は同日に定例理事会を開き、開発局から説明を受けた。道建協からは、季節雇用者を抱える企業は時期によって社員が増減するため給与総額の調整が難しいとの指摘があったほか、役員報酬について株式会社では賞与のアップや役員報酬限度額の変更には株主の承認が必要なことから賃上げの対象に含めることに疑問を投げ掛ける場面もあった。会員企業の疑問点を解消するため地方での説明会開催も要望した。

 業界では加点措置によって2、3年後には経営が苦しくなる企業が出てくることを危惧している。特に地方の道路維持や除雪、緊急時の災害対応を担う中小規模の建設業者が廃業に追い込まれれば地域の安全も危うい。賃上げの実績を評価すること自体に対し異論を挟む関係者はいないが、会社経営に悪影響を与えずに適切な賃上げを実行し、それを評価するための環境整備や制度設計の改善が求められている。


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