訪問診療医師の悲劇

2022年02月02日 09時00分

 在宅医療に携わる医師や看護師とその患者、家族らの姿を生々しく描いたノンフィクション『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子、集英社)を読んでいると、こんな一節に目が止まった

 ▼「『かまいい』という言葉をご存じですか? こちらの言葉で『おせっかい』という意味です。まぁ、我々のやっていることは、『おせっかい』なんでしょうな」。渡辺西賀茂診療所の院長がつぶやくように筆者に語る場面である。たいていの人は自分の仕事と他の仕事に線を引き、自分の仕事以外は見て見ぬふりをする。しかし院長は言うのだ。「それでは社会は回っていかんのですよ」。患者とその家族に関わりすぎるくらいでないと、納得のいく在宅医療にはならないというのである

 ▼病気だけでなく目の前の人にしっかり向き合う。相当の覚悟がなければできないことである。27日に発生した立てこもり事件で犠牲になった医師の鈴木純一さん(44)も、そういった高い志を持って訪問診療を続けていた人だったようだ。報道によると、埼玉県ふじみ野市で鈴木さんの診療していた92歳の女性が死亡。その息子が翌日、家まで弔問に来いと医師らクリニックの関係者を呼びつけた。そこで男は母親に蘇生措置をと無理な要求をし、医師ができないと断るといきなり散弾銃を発砲したそうだ

 ▼男は警察の調べに対し、医師らを殺して自殺しようと思ったと供述しているという。幾重にも愚かな話でないか。本来なら鈴木さんは弔問に行く必要などなかったはずである。とことん向き合おうとしたのだろう。実に痛ましい。


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