江戸幕府を開いた徳川家康の農民政策を象徴する言葉として知られる「百姓は生かさず殺さず」は、もともと別の人物が言っていたことだったとの説がある。その人物とは、相模国玉縄藩主で幕府老中も務めた家康の側近本多正信だ
▼天下国家を統治する手法について書かれた当時の書『本佐録』に、本多のこんな持論が収められているそうだ。「百姓は財のあまらぬように、また不足のなきように治ること道なり」。生かさず殺さずよりは柔らかい表現だが、余裕を認めずぎりぎりの暮らしを強いる点では変わらない。これを幕府の基本方針としていたわけである。いわば支配する側の論理だろう。江戸時代の年貢が「五公五民」になったのもむべなるかな。いくら稼いでも半分を持っていかれるのでは生きるだけで精一杯だ
▼昔は大変だったね、と安心してばかりはいられない。実は今の日本もほとんど同じなのである。財務省が先日、2021年度の国民負担率が過去最大の48%に達したことを明らかにした。国民負担率は税金や社会保険料が所得に占める割合である。つまり稼いだお金のほぼ半分を国に収めているわけだ。まさに五公五民。石川啄木でないが、「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり」と感じるのも当たり前
▼00年に35.6%だったのが13年に40%を超え、それからたった8年で50%の大台に迫っている。加えて昨今は、ガソリン代の値上げや高い電気料金も負担増に追い打ちを掛ける。公的な支払いを済ませた後は、懐に冷たい風が吹く。お上にはこのつらさが分からないか。