深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り イーベック 土井尚人社長

2022年03月03日 11時30分

土井尚人社長

「抗体バンク」つくりたい

 イーベック(本社・札幌)は、新型コロナウイルスの変異株への対応が有望視される医薬品用の抗体を開発したバイオベンチャー企業だ。1月には札幌市などが立ち上げた健康医療・バイオ分野に特化する官民連携地域ファンドの投資先企業に選定された。同社のキャッチフレーズである〝70億人の医療をこっそりささえる〟ための展望を土井尚人社長(55)に聞いた。

 ―新型コロナウイルスの抗体とは。

 抗体は、副作用が少なく、高い治療効果が期待できる医薬品の開発などに用いられる。当社は流行が本格化した2020年4月から新型コロナの抗体開発を始めた。抗体はアルファ株やデルタ株のほか、オミクロン株にも有効であることも分かった。

 マウスの体内を通して作製するのが一般的だが、当社はヒトの血液から作製する世界的にも珍しい技術を持つ。ヒト由来であれば体内になじみやすく、アナフィラキシーショックなどのリスクが少ない。

 作製に用いる血液は感染回復者から採取している。いわば、ヒトの免疫が自然に身に付けた抗体をベースとした「鍛え抜かれた抗体」だ。開発した新型コロナの抗体については、医薬品化すべく製薬会社などとの協議に進む。

 ―感染症対策として他にはどんなものがあるのか。

 さまざまな感染症の抗体バンクをつくりたい。エボラ出血熱、デング熱など世界にはさまざまな感染症があり、いつ流行が始まるかは分からない。その時に備えて抗体を作製する。

 新型コロナの抗体開発を通して、過去の感染者や特定のウイルスが多い地域住民からは、抗体作製に適した血液を採取できることが分かった。このような血液が集められれば、多くの感染症に有効な抗体をそろえられるだろう。

 今後、札幌冬季五輪の開催や、多くのインバウンドを受け入れるためにはさまざまな感染症への対策が必要。抗体開発など事前の準備が重要だ。

 ―ベンチャーとして医療発展のためにどのような策を打つか。

 潜在化しているニーズは、最も身近なイノベーションになり得る。このため新たな抗体開発に向けて各病院・医院にヒアリングする際は「今売られている薬で副作用が強い薬はないか」と聞く。新薬開発と比較して副作用緩和に関するニーズは埋もれやすい。

 このヒアリングから取り組んだのがサイトメガロウイルスの抗体作製だ。日本人の7割が自然に抗体を持っているが、輸血や臓器移植により抗体を持っていない人が感染したり、妊婦の体内で母子感染が起きて子どもが障害を負ったりすることもある。しかし、サイトメガロウイルスの薬は副作用が強く、特に妊婦への服用は難しい。そこで当社の技術を用いて副作用の少ない新薬を作るための抗体を作製した。安全性の確認を終え、患者に投与して効果を検証する段階に入っている。

 ―会社の役割について。

 人の活動を守りたい。例えば山ではダニによる感染症が危険だ。東南アジアにはダニを媒体とする致死率30%以上の感染症があり、地球温暖化とともに九州、東北でも確認された。北海道にやってくるのも時間の問題だ。このような感染症に抗体を基にした医薬品があれば対応できる。

 あとは人材の確保。北海道には医療系の大学が多いが、就職先の受け皿が少なく、首都圏に人材が流出している。北海道の企業として優秀な医療人材を受け入れる会社でありたい。

(聞き手・宮崎 嵩大)

 土井尚人(どい・ひさと)1967年1月生まれ、兵庫県出身。89年に関西学院大経済学部卒業後、安田信託銀行(当時)に入行した。2003年に取締役としてイーベックを創業し、04年8月から現職。

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