30年までに累計30万kWへ
北海道は陸上風力発電の導入ポテンシャルが全国で55%を占める。脱炭素の実現には洋上風力だけでなく、陸上風力の道内拡大が欠かせない。特定非営利活動法人北海道グリーンファンド(本部・札幌)は2030年までに、道内中心に累計30万kWの陸上風力を置く考えだ。市民出資による陸上風力を手掛けてきた鈴木亨理事長(64)に、技術開発などを踏まえて一層の普及が期待される再生可能エネルギーの動向を聞いた。
―再エネに携わり始めたきっかけを。
原発に頼らない社会を実現したいと1999年に北海道グリーンファンドを立ち上げ、「グリーン電気料金制度」を始めた。北海道電力に支払う料金の5%を寄付してもらう仕組みだ。
この寄付金と市民出資、銀行融資を資金に01年、全国初の市民出資による陸上風力を浜頓別町に建てた。建設費は2億円、出力1000kW級だ。グリーン電気料金制度は現在も続き、基金を積み立てている。北電以外の電力会社との連携も検討している。
―陸上風力の事業状況は。
北海道や東北、関東などで44基の風車を運用している。大半で市民出資を受けた。道内では石狩市に多い。出力容量は計10万kWで、30年までに30万㌔㍗に増やすのが目標だ。固定価格買い取り制度(FIT)認定は得ている。
01年当時は融資を受けるのも簡単ではなかったが、FITができると安定収入が見込まれるため融資されやすくなった。
―他にはどのような再エネ事業を。
関連会社のバイオガスエナジー(本社・札幌)で手掛けた発酵槽を宮崎県内の農場に導入した。乳牛のふん尿などをバイオガス発電に使っている。
代表取締役を務めるバイオマスリサーチ(本社・帯広)は21年、湧別町や農協と共同で特別目的会社を立ち上げた。バイオガスプラントの建設・運営を進める。
また、北国熱源社という新会社を間もなく立ち上げ、オーストリア企業のチップボイラを道内で販売する。札幌のNPO法人ezorockと共同設立だ。最近の原油高で、木質バイオマスは価格変動リスクの小ささが注目されている。北海道再生可能エネルギー振興機構という団体でもウェビナーなどで再エネの情報発信に取り組む。
―道内の再エネ拡大をどう見てきたか。
FITがある割には進まなかった。背景には電力系統規模の小ささがあるが、関連施策も始まっている。容量と周波数という2つの側面がある。
容量面では21年1月、系統容量の空きを活用して電力を供給し、空きがないときは出力制御する「ノンファーム型接続」の全国展開が始まった。再エネの系統接続がよりしやすくなるだろう。
―周波数の側面とは。
電力は需給バランスが崩れると周波数が乱れ、産業機器などに不具合が起こる恐れがある。太陽光や風力は自然条件による出力変動の調整が必要だ。
方法の1つが蓄電池で、コストは大幅に下がっている。札幌近郊でも複数の新電力企業が、系統につながる蓄電池発電所の設置を発表した。北電も系統接続する太陽光と風力に対し、出力変動緩和の蓄電池設置を要件としている。今後設置は増えるだろう。
また、北本連系設備は28年までに120万㌔㍗に増強される計画だ。政府は北海道と本州を結ぶ海底送電線も検討している。出力変動の調整力が高まって再エネの追い風となる。
―洋上風力について。
規模の大きさから言って北海道の再エネの中心になるだろう。北海道はエネルギー移出地域になれる。食と合わせて基幹産業として推進すべきではないか。
―電力事業はどう変わるか。
今まで電力会社に最も求められていたのは供給力だった。今後は再エネや蓄電池としても使える電気自動車が普及する。需要家の効率的なエネルギー利用を促す「調整力」に重心が置かれる時代になる。
(聞き手・高田 陸)