本間純子 いつもの暮らし便

 アリエルプラン・インテリア設計室の本間純子代表によるコラム。

 本間さんは札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第2木曜日に掲載しています)

本間純子 いつもの暮らし便(18)SHIMOKAWA GREEN

2022年03月11日 15時18分

 道北の下川町には、道民なら誰もが納得する素敵な色があります。その色名は「SHIMOKAWA GREEN(シモカワ・グリーン)」。下川の森の色です。実際の色とその説明は、しもかわ観光協会のホームページでご覧いただくとして、ここでは制作プロジェクトに関わった景観色彩研究室(本間純子+佐藤裕子)のこだわりとエピソードをご披露します。

 「下川の森の色を決めたい」と、しもかわ観光協会の長田拓氏(当時)から依頼があったのは2013年春のことでした。森林文化が町の経済基盤である下川町。「町の活性化にアイデンティティーカラーが必要」と熱く語る長田氏の言葉に、色彩が持つ力を実感している私たちは、町の人と共に歩む森の色を見つけ出したいと思いました。

 私たちには、下川の森林をイメージする緑色の選定方法について、こだわりが二つありました。一つは町の人が撮影した森の写真から色を探すこと。もう一つは町の人自身が色を選定すること。主体はあくまでも下川の町民で、町の人が毎日目にする森の姿が色彩の基本です。

 私たちは黒子に徹することを心に命じていました。SHIMOKAWA GREENは、立派な色彩学者が授けたものでもなければ、熱い思いのグループの独りよがりな色でもない。町の人が自然に受け入れられる色でなければ、積極的に活用されることはないだろうと考えたのです。

 写真は公募でしたが、募集期間が限られていたので、緑色のバリエーションが得られるかが心配でした。でも、下川の森の緑は豊かで、明るい黄みの緑から暗く深い青みの緑まで、60枚の写真が選定できました。60色の美しい緑のグラデーションの一覧は大きなシートに印刷され、いよいよ町民によるSHIMOKAWA GREEN総選挙です。

 投票は季節による色彩イメージの影響を考慮し、1回目を夏のうどん祭り、2回目を一面銀世界の冬に行いました。投票結果は「柳の若い葉の色」のトップ当選。夏も冬も不動の一位でした。

 私たちの予想とは少々違っていましたが、理由はすぐに理解できました。SHIMOKAWA GREENはマンセル値5・3GY7・1/7・5。黄緑のほぼ中央、明度も彩度もやや高めで、若草色と萌黄色の中間くらいの色です。

 雪解けが進み、カタクリやエゾエンゴサクの花が終わる頃、森の木々はSHIMOKAWA GREENの葉を枝々から一斉に差し出してきます。森が芽吹きの季節を迎え、みんなが待ち望んでいる色です。長い冬の後に到来する、再生のイメージの色でした。

 14年2月にSHIMOKAWA GREENの提案を終え、商店の一角に作られた待合所で帰りのバスを待っていた時、その店のご主人が「決まったの?」と声を掛けてきました。全くの初対面でしたが、私たちの来訪は知られていたようで「その色?」と、私が持っていたショッピングバッグを指さします。「すごく近いです」と答えると、「やっぱりね」とうれしそうな笑顔が返ってきました。この時、SHIMOKAWA GREENは成功すると確信しました。

 今、SHIMOKAWA GREENはアイデンティティーカラーとして定着し、とても良い仕事をしています。町の人に愛されながらの活躍ぶり、今後の成長も楽しみです。


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