最新の医学によると、がん細胞は常に体内で生じていると考えています。がん細胞とは、突然変異が起こって周りと協調せずに、得手勝手にどんどん増殖してしまう細胞のことです。がん細胞は常に生じているのに、そう簡単には「がん」にはなりません。それは、免疫細胞が、生じたがん細胞をすぐに見つけ出して、退治してしまうからだと考えられます。
しかし、生じるがん細胞の数が増加したり、免疫細胞の働きが低下したりすると、わずかな確率ですが、免疫の攻撃を逃れるがん細胞が出てきます。そうすると、がん細胞は細胞分裂をはじめ、次第に数が増えて増殖し始めます。
ただ、集団になれば、免疫細胞にとっても見つけやすくなるので、小さながん細胞の集団は排除されてしまいます。こうした防御システムをかいくぐって、検査などでかろうじて見分けられるがんができるまで、10年はかかるといわれています。これが、早期がんといわれるものです。発見すれば、手術、放射線、薬物などによって、すぐに治療できます。
この早期がんができる大きな原因は、がん細胞が生じやすい体の状態が続くことです。ストレス、生活習慣の乱れ、習慣性の喫煙、飲酒、過食、偏食などが、がんを生じる誘因となります。また、ストレスや睡眠不足、過労などは、免疫細胞の働きを弱めるので、がんを引き起こすきっかけになると考えられるのです。つまり、誰でもがんになる危険性を抱えているというわけです。
早期がんを、検診などを受けずに放置していると、がんがさらに大きくなり、ついに血管やリンパ管の中に進入し、血液やリンパ液の流れに乗って、別な場所にがんを作ります。がんの転移という状態です。
こうなると、全身どこでもがんができることになるので、1カ所治療しても追い付かなくなります。がんがある程度大きくなったり、全身にばらまかれたりすると、全身の他の細胞に悪影響を与え、ついには死に至ります。ですから、がんはなるべく早期のうちに発見して、取り除くに越したことはないのです。がん検診はとても大事です。
日本において、昨年見つかったがん患者の数が、一昨年より減少したという報告が出ました。がんの発生自体が減ったとは考えにくく、新型コロナ感染拡大で、がん検診を受ける人の数が減ったためと考えられます。コロナ禍でもがんはできます。検診を受けましょう。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)