
青井貴史社長
リスクに備えた平衡感覚
耐寒、防刃など高機能を売りとする手袋の「AOI WORKS」ブランドを手掛ける青井商店(本社・旭川)は、軍手販売をルーツとし、作業衣料の専門卸にして独自商品を企画するものづくり企業だ。1日付で5代目トップに就任した青井貴史社長(45)に経営の考え方を聞いた。
-自社ブランド商品のラインアップが豊富だが。
主力の防寒手袋だけでも40種類と、他社の数倍ある。営業担当がつかんできたさまざまな現場ニーズをもとに細部にもこだわった製品をハイペースで出してきた。
例えば手のひらや指の部分に厚手のゴムをコーティングした作業用手袋は、他社製に比べ手の甲の側も広めにゴムで覆っている。その方が水が染みず断熱性も高い。長時間つけても疲れにくいよう、手指の自然な湾曲に合わせた形状にしている。
通常の普及品は手を完全に開いた金型で作るため平面的で、価格は安くても手のなじみに問題がある。当社のブランドコンセプトは現場で働く人の助けになること。作りたい商品は尽きない。
-なぜ独自ブランドを。
20代半ばで東京からUターンして入社すると業界全体がひどい価格競争になっていて、安さに負けない付加価値を追求しなければと感じた。中国で製造委託先を探し始めたのは十数年前で、80社ほど訪問した。今は8工場と提携し、生産している。
近年は売り上げの3割を自社商品が占める。ただ当社は卸でもある。取引先メーカーとの関係も大切にしながら適度な割合で進めたい。
-販売手法の特徴は。
最近、業種ごとの商品を集めて販促カタログ作りを始めた。具体的には農協から組合員が求める手袋の機能を聞き出して商品を抜粋し、専用カタログを作成した。組合員に配布してもらい、農協から一括で注文を受ける。組合員は個人で買うより安く手に入り、当社はまとまった注文を受けられる。農業だけでなく、他業種に対しても取り組みたい。
-創業99年目のタイミングで会社を継いだのは。
先代の父が以前から75歳で引退すると言っていたため心積もりはできていた。会社の代表権も引き継いだ。専務時代から海外展開をしてきたが、社長になったことで、取引先からの見られ方も明らかに違う。立場が変わったことを実感している。
-これから会社をどう成長させるか。
私は好景気を知らない世代で、社会に対する危機感が常にある。リスクに備え国内事業、輸出、輸入とバランスよくやることが必要だ。一方、ゴム製品のノウハウを蓄積してきたため、手袋に限らず靴や衣類などにも力を入れたい。
-防寒手袋の対ロシア輸出が軌道に乗りつつあったが、中断せざるを得ない状況では。
販路開拓に加え、極寒の現場で当社の手袋がどれだけ機能するか実証する目的もあって、10年前から渡航を重ねていた。ロシア側パートナーに恵まれ、コロナ禍で現地営業ができなくなっても定期的に注文をもらえる状況だったが、誰も予想しなかった戦争のため、今は貿易を中断せざるを得ない。ここは本当につらく、先が見えない状況だ。
-他国への輸出について。
いずれ検討しなければならない。もともとロシア市場で成功できたら北欧などでも展開したいと思っていた。足元ではコロナ禍も続き、海外展開が非常に厳しい状況にあるが、将来は多くの国の事業家や企業とパートナーシップを結び、さまざまな連携事業を展開できればと考えている。
(聞き手・吉村慎司、藤井侑穂)