
佐久間陽介社長
人がしない事業 自力で
釧路川河口、釧路港を遊覧する夕日観光クルーズ船「シークレイン」が、大型連休初日の29日に今シーズンの運航を始める。運営するのは、飲食店や貸しオフィス、イベントホール運営など幅広い事業を手掛けるアイコム(本社・釧路市)だ。クルーズ船に自らガイドとして乗り込む佐久間陽介社長(42)に事業と会社の針路を尋ねた。
―クルーズはどんな事業か。
弊舞橋のそばにある乗り場から日没1時間前に出航して「世界三大夕日」といわれる釧路の夕日を90分かけて堪能してもらう。船内の飲み物はアルコールを含めて飲み放題。写真スポットでは船を止めて撮影を楽しめる。天候のせいで夕日を見られないときは次回用の割引券を渡すなどの取り組みもあって、リピーターが多いのが特徴だ。貸し切りで日没後の夜景クルーズも実施している。
―観光業はコロナ禍のダメージが強いのでは。
当社も影響が直撃した。クルーズの本格的な営業は2017年からで、右肩上がりに利用者が増えて19年シーズンは年間1000人規模になり、この調子が続けば20年は黒字転換できそうだった。だがコロナで利用が3分の1に減ってしまった。昨冬の運航終了時には撤退も考えたが、多くの人から存続をと頼まれ、経費削減に努めながら続けることにした。
―コロナ禍が続き外国人客の戻りが見込めない状況だが。
当初から利用客の大半が日本人で、インバウンド消滅の影響は受けていない。外国人の滞在先は阿寒などで、国内客は釧路中心部に泊まる。コロナ以降は近場への旅行が見直され、特に道内客の割合が増えた。今シーズンは採算性を重視して運航を土日祝に限る。11月末までの期間中、少しでも多くの人に利用してもらいたい。
―会社設立は1999年。観光はいつから。
当社はもともと飲食店向けのカラオケ機器リースが主要業務で、叔父が経営していた。自社のカラオケ施設もあって、私は30歳のときにUターンで入社し、店長として働いていた。だが少子化で需要が先細るのを肌で感じ、私が経営を継いだ8年前に決断してカラオケ業界から撤退した。
―すぐに観光に切り替えたのか。
その後は施設を改装して、早朝の時間帯を狙った文化教室を開いたり、飲食店やレンタルスペース事業を始めたりと、さまざまなビジネスに挑戦してきた。
観光船は、地元に貢献できる事業をやれないかと社内で検討する中で出てきた案だった。50人乗りの船を中古で調達して修繕し、私を含む関係者4人全員が小型船舶操縦免許を取って、手探りでスタートした。
―船を買うのは思い切った投資だが、金融機関などから融資を受けられたのか。
受けていない。カラオケ機器のリース契約を他社に売却したときに、まとまったお金が入ったのでそれを原資にした。そもそも私には他人のお金で事業をする考えはない。これまで手掛けたどの事業も、すべて自分たちでやれる範囲のことをやってきた。
―大型資金調達を目指して会社の成長計画を練る若手経営者も多いが。
もちろんクルーズなど個々の事業は大きく成長させたい。だが、自社の社員数や売り上げ規模の拡大を目指したことは一度もない。限られたリソースの中で、誰もやっていないことを実現するのが自分のやり方だと考えている。
(聞き手 吉村 慎司)