自社サービス導入、収入源に
2022年に入り、エネルギーや通信などの道内インフラ関連企業が不動産賃貸事業を強めている。北海道ガスやNTTグループのエヌ・ティ・ティ都市開発は、札幌市内で賃貸マンションの供給をそれぞれ開始した。JR北海道は賃貸の新ブランドを立ち上げ、開発に乗り出す。いずれも社宅跡などの遊休地を活用。新規顧客獲得のため住居に自社サービスを導入したり収入源を確保する狙いで、事業領域の拡大にかじを切っている。
札幌市内の北4東6周辺やJR苗穂駅前の大規模再開発により、にぎわいを見せる創成川イースト地区。北ガスは地下鉄東西線バスセンター前駅から徒歩圏に「EFUTE北3条」(中央区北3条東5丁目)を新築した。
住居には同社が提案するエコジョーズや、暖房運転を自動で省エネ制御できる「北ガススマートリモコン」などを各所に導入。断熱、遮音は分譲並みの性能だ。
同社の担当者は「賃貸の収益だけでなく、分譲マンションや戸建てに移った後も北ガスが提供するエネルギーやサービスを選んでもらうきっかけになれば」と説明。2棟目の準備も進めている。
エヌ・ティ・ティ都市開発は4月に賃貸マンションを中央区北5条西15丁目で供給した。NTT北海道エステートを含む5社と合併した1999年以降、道内初物件となる。「ウエリスアーバン」のブランドで、NTT東日本が提供する光通信回線「フレッツ光」を全戸に設置。エントランスの自動ドアや非接触ボタンのエレベーターを採用し、自室まで共用部分に触れることなく入室できるのが特徴だ。
同社は札幌市内の社宅跡地の売却や有効活用を進めていて、賃貸事業もその一環。「新たな収入源になれば。年2棟の供給を目指したい」(同社担当者)と不動産投資に意欲的だ。幹線道路沿いの遊休地に関しては商業開発も視野に入れている。
札幌市内では、JRや地下鉄駅に近い分譲マンションの販売価格が高騰。4000万円以上する物件がほとんどで、簡単に購入できない現実がある。新築につられて中古も値上りが続く。特に築年数が浅く、交通利便性の高い物件は品薄状態だ。
こうした中、都心部で高品質な賃貸住宅が注目されている。不動産関係者によると、高騰する分譲マンションを敬遠するファミリー層に需要があるとみている。最近では、2LDKを増やしたり、賃貸では少ない3LDKといった広い間取りを導入するケースも出始めた。コロナ禍でリモートワークに対応した新築物件に引っ越す割合が高くなっている。
賃貸の新規ブランド「Junord(ジュノール)」の立ち上げを発表したJR北は、駅周辺の社有地にミドルクラスの価格帯を展開する。1棟目は極楽湯さっぽろ手稲店跡で23年春の開業予定。鉄道事業を支える新たな事業につなげたい考えだ。
北海道電力も賃貸事業に前向きな姿勢を見せる。21年10月、グループでの不動産事業を北電興業に一元化する事業再編をした。同社は「エナコート」のブランドで4棟の賃貸マンションを札幌市内で供給したが、08年を最後に開発を見直している。
今後は、自社保有する資産を活用した不動産開発・運営事業に乗り出す考え。ヒートポンプの技術が向上していることを踏まえ、「スマート電化を採用した不動産開発を通じ、省エネに取り組む」(北電)と話している。