プロ野球グラウンド用 踏み込み効き、選手に好評
名寄土管製作所(本社・名寄)は、暗渠用排水管に使う土管や水田の水位を保つ水甲管を製造している。素材の変化で土管の需要が減る中、近年は培った窯業技術を生かし、プロ野球グラウンド用の土を手掛ける。水はけの良い土は選手にも好評で、将来的な事業拡大を視野に入れている。
同社は1936年に名寄陶管工場として創業し、1941年に設立。戦時中の食料増進政策を進める中、農業排水用の土管などを製造していた。
名寄市の丘陵地帯には、粘土質できめが細かく、窯業に最適な土が産出する。同社は地元で採れた土を使い直径の違う4種類の素焼き土管を製造。かつては排水管などで広く土管が使用されていたという。
「名寄型」と呼ばれる水甲管も製造。水田の水位を維持する資材として普及する。
しかし、排水管は塩化ビニールやポリエステルなど、次第に軽量な素材に代替。土管の需要は次第に減少の途をたどった。
4代目となる松前司社長は「時代の流れには逆らえない。柔軟に変化することも大事」と話す。合成樹脂でできた排水管なども仕入れ、土管はオーダーメードで製造する。
一方で「これまで培った土管の技術をすたれさせるわけにはいかなかった」。土管製造の技術を生かし、新たな市場開拓を模索していたところ、日本ハムファイターズの北海道移転という転機が訪れた。
2004年に選手の手形を焼き付けたセラミック製プレートを製作した縁で、札幌ドームの運営会社が同社にグラウンドの土の搬入を依頼。06年から本格的に導入し、マウンドやベースの周辺に使用する。
同社は、グラウンドの基礎地盤として使う「クレイ3N44」と表面に敷く「ミスティクレイ」を製造。土を練って空気を抜き、いったん土管状に形成して自然乾燥させたものを素焼きした後、細かく砕くことで良質な「土」が出来上がる。
窯業の技術を駆使した土は、水気を与えることで適度に引き締まり、踏み込みが効きやすくなることから、選手や整備士から高い評価を得た。「メジャー指向が強まり、固いグラウンドを好む選手が増えたことも追い風になっているのでは」と分析する。
選手を通じて札幌ドームのグラウンドが次第に知れ渡り、納入を求める球団が増加。21年までに日本ハムを含め3球団のスタジアムに納入し、22年からは横浜スタジアムにも導入された。
「複数の球団に製品を納めたことで、事業の形ができつつある」と松前社長。今後の展望について「球場は全国で400カ所以上あるといわれる。サブグラウンドや県営球場にも活用できれば」と、異分野への挑戦に意欲を見せる。