閉ざされた大動脈 乙部町229号岩盤崩落から1年

 国道229号乙部町館浦の岩盤崩落から6日で1年がたった。この間、所管する函館開建は安全を考慮し、現道での復旧ではなく新たなトンネル掘削を決めるなど、大きな動きもあった。しかし、開通はまだ先の話で地元は我慢を強いられる状況が続く。地域経済に与えた影響や関係者の努力をひもとき、防災・減災や将来のこの地域の在り方を考える。(函館支社・鳴海 太輔記者)

閉ざされた大動脈 乙部町229号岩盤崩落から1年(上)地域経済の深刻な打撃

2022年06月09日 11時00分

新トンネル早期開通目指して 町内業者の継続支援欠かせず

 桧山地域の中央部に位置する乙部町。東西18km、南北17kmにわたって広がる、人口3384人(2022年4月時点)のまちだ。

 日本海に沿って通る国道229号は町の大動脈とも言える路線。桧山管内を行き来する人や流通にとって大きな役割を担っている。沿道には「海のプール」で知られる元和台海浜公園や、美しくも奇妙な断崖「シラフラ」など観光名所も多い。

「東洋のグランドキャニオン」とも呼ばれ、
町の重要な観光資源となっている国道229号沿いの断崖絶壁

 21年6月6日午後6時ごろ。館の岬トンネルのせたな側坑口付近で、大規模な岩盤崩落が発生した。巻き込まれた車や人はいなかったものの、大量の土砂が道路を埋め尽くし通行止めが始まった。

 「新型コロナウイルス感染症の影響で人流がほとんどなくなっていた中の災害。まさにダブルパンチだ」と話すのは乙部町商工会の田中義人副会長。自身も土産物などの卸・販売を手掛ける田中物産店(本社・乙部)を経営している。

 かつては姿を見せていたツアーバスも乙部町をルートから外す動きがあるようで「全く来なくなった」と肩を落とす。道の駅などにも商品を卸していたといい、客足が遠のくことで売り上げに大きなダメージを受けている。

 地域住民の生活も大きく変化した。地域内の迂回路はあるが、通行には従来の数倍の時間がかかる。「買い物の頻度が減り、商店街の売り上げが落ち込んだ。医療機関の受診も1週間に1回だったのを2週間に1回にしているという声も聞かれる」という。

 こうした窮状を救っているのが、町が進める経済対策だ。プレミアム付き商品券を筆頭に、燃料費高騰への支援など多様なメニューを展開している。

 商工会としても町へ支援制度の充実を働き掛けてきた。これが奏功し、町内業者の売り上げは大きく落ち込んだものの、廃業したケースはないという。「かなりの支援をしていただいているというのが実感。これからも町と連携したい」。

 今後の願いは「一日でも早いトンネルの開通」だ。使われていなかった町道を改良した応急短絡路が4月1日に開通し、通行時間短縮に大きく寄与しているが、急カーブが多く勾配も激しいことから、冬季の利用には不安が残る。大型車両は通れないことから、豊浜地区で水揚げされるスケトウダラなど水産物運搬には使えない。

 そうした中であっても、北海道開発局をはじめとする行政機関や建設業には感謝を寄せる。「迅速な初動や調査、専門家からの意見聴取、迂回路整備に至るまで積極的に対応していただいた」。

 函館開建では22年度からトンネル整備に向けた調査を本格化させるが、開通時期はまだ見通せない。行政と町民が意思疎通を図りながら早期開通を目指すのと並行して、経済対策を続けることがこれから先も必要となるだろう。(3回連載します)


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