経済対策や迂回路確保に尽力 防災・減災は自治体連携が重要
乙部町の寺島努町長は、発災直後から常に町民の最前線に立っていた。現在1期目で、当時は新型コロナウイルス禍に苦しんだ2年目を終えたところ。「経験不足の中、この苦境を対外的にどう伝えていけばいいのか悩んでいた」と手探りだったことを明かす。
当日は国道229号を通った職員から連絡を受けて自宅から即座に現地へ。警察が到着するまで自ら路上に立ち、道行くドライバーへ引き返すよう呼び掛けた。
経済対策の財源確保にも奔走した。国の地域づくり総合交付金だけでなく、ふるさと納税も活用しようと、札幌市や自身の出身地である埼玉県にも赴き、街頭に立ち支援を求めた。そのかいあって「2021年度は前年度比で1・6倍のふるさと納税をいただいた」と感謝を寄せる。
インフラ面では、「国道と同等の安全性、利便性を」と、地域内迂回路への安全施設設置を求め、「緊急車両の通行に必要」として応急短絡路の整備を函館開建に対し強く要望。実現へ道筋を付けた。
現在も「災害以前の生活を取り戻してほしい」との一心で町政に励む。迂回路の通行でかさむ交通費やガソリン代を助成する制度を創設したほか、デマンドバスも当初の予定から前倒しし、22年度からの開始にこぎ着けた。
そうした活動の裏側には、「表に出ない町民の苦労に目を向ける必要がある」との思いがある。「道立江差病院に入院する家族の最期に、迂回路を通っていたことから立ち会えなかったという方がいた。通勤や子どもの学校の送り迎えなどで迂回路を使う人の疲労も相当なものだと思う」
町の中心部が被災地南側で、日常の買い物などはさらに南の江差町柳崎町ですることが多いのも関係している。「北側の住民の中には、世間から取り残されていると感じている方も多い」という。地域間格差の解消へ、今後も交通費の助成など経済対策を続ける考えだ。
一連の対応を経て寺島町長は「桧山はインフラ整備が遅れていることは否定できない」との思いを強くする。
医療を例に「高度な医療を受けるには函館圏へ搬送する必要があるが、桧山地域は高規格道路や高速道路がない」と訴える。ドクターヘリも天候や時間帯によっては使えず、「安全かつ高速に運べる陸路の充実が欠かせない」という認識だ。
22年度に乙部防災が新規事業化し、1年目としては多額の予算が配分されたことについては「早期復旧は住民の総意、という声が届いた結果」と話す。この経験を踏まえ、今後のインフラ整備や防災・減災に関わる事業についても「桧山管内の自治体同士で連携し、地域全体の意見として関係機関に訴え続けることが重要」と力を込める。
道内はいま、どの地域も人口減少とそれに伴う地域経済の衰退という大きな壁に直面している。ひとたび自然災害が発生してインフラにダメージが加われば、それらの加速が現実化することが、乙部町の事例からも明らかになった。
しかし、厳しい自然環境が魅力的な土地を形作っているのも事実だ。人々が安心して暮らし、さまざまな地域から行き来できる環境の整備が止まることはあってはならない。