地域内での存在意義創出を 石狩市は再エネ武器に誘致
「数十年後、誘致したデータセンターがゴーストタウン化する恐れがある」―。日本不動産研究所(本社・東京)の奥村祥平参事は、地方分散の先にある懸念を述べる。急激な進化を続けるIT業界の中で旧型設備が並ぶ〝老朽化施設〟になってしまえば、テナントからの需要が減り撤退するからだ。誘致したDCを維持し続けるためには機器更新への投資とは別に、なぜその地域のDCを使うべきなのか、顧客に対する説得力が求められる。
一つの鍵は電力事情だ。DCが消費する莫大(ばくだい)な電力を、できるだけ環境に負荷をかけずに確保できる地域かどうか。おのずと、再生可能エネルギーを活用できる立地が注目されることになる。デジタル化により国内のデータ通信量は2017年から20年までの3年間で約2倍に上り、通信量に比例してDCの電力使用量も伸び続けている。
DCが集積するシンガポールでは、国内電力使用量の1割弱をDCが占め、新たな施設建設が一時的な停止に追い込まれた。世界的なカーボンニュートラルの広がりも相まって、多大な電力を消費するDCにとって再エネは大きな付加価値となる。米グーグルも30年までに電力供給を完全に脱炭素化する考えを示した。
そうなると、全国有数の洋上風力発電候補地でもある石狩市の存在感は増す一方だ。同市は産業集積が進む石狩湾新港に5区画計25.3haの分譲予定地を用意し、DC事業者を待つ。分譲地を含む一帯100haは、全ての電力を再エネで賄う「REゾーン」計画があり、業種を問わず全国からの注目の的だ。
その上で同市は、商業施設や交流施設との複合化という新たなDC像も描く。市企業連携推進課の堂屋敷誠課長は「REゾーンには電源が喪失しても代わりの電源があるという防災的な強みが生じ、人々が集うエリアとしての可能性が高まる」と説明。DC誘致の先には、人と情報が集まる都市型産業空間としての石狩湾新港発展が見える。
ただし本道は系統が脆弱(ぜいじゃく)で、再エネ普及に課題がある。好条件がそろう時間帯に多く発電できても電力需要に見合わなければ出力を制限されてしまうため、性能を最大限発揮できない状況だ。
その課題にDCを活用して解決する実験が首都圏で始まった。「電気を動かすより、電力需要を動かす方が簡単」と話すのは、ビットメディア(本社・東京)の高野雅晴社長。DCによる電力消費を利用して再エネを生かすシステムの構築を急ぐ。
同社が考えるのは、発電量が過剰となっている地域のDCに消費電力が大きい情報処理を任せることで、余剰電力に対する需要を生み出すシステム。実現すれば、系統の増強がなくても発電設備の機能を最大限発揮する環境が地域にもたらされる。既に都内のインフラ関係企業と実験を進めていて、22年度中に一定の結果を示す方針だ。
DC立地の意義は地域の産業振興にもある。三菱総研DCS(本社・東京)の中村秀治常務は「北海道で生まれたデータは道内に。DCは地域産業を発展させる存在になれる」と強調する。
例えば農業・酪農に関わる膨大な資料や研究データを道内DCに蓄積すれば、研究開発などにデータを活用したい企業などの集積が考えられる。海底ケーブルが欧米と直接つながれば、DC同士を通じて同じ産業を持つ海外地域とのデータ交換なども可能だ。DCは新たな産業振興のルートを切り開く起爆剤になる。
DCと道内大学・企業の連携を通した「石狩発」の新事業創出を狙い、石狩市もDC事業者の地域交流を図る協議会結成などを検討する。DCが再エネや地域産業と結び付くならば、それが一番の説得力だ。