〝電力網強化〟など条件整う 北海道の未来描くヒントに
北海道で大規模データセンター(DC)が集積する未来はあるのか、それはどんな姿なのか。ヒントを示唆するのが千葉県印西市だ。都心から電車で1時間強、郊外ニュータウンの広がる「INZAI」では今、世界のDC事業者が大規模施設の建設を進めている。電力網の強化工事も急ピッチだ。背景には強固な地盤や巨大人口の近さといった好条件と、首長の率先した行動があった。

電線トンネルや変電所の工事が市内各地で進む
北総鉄道の千葉ニュータウン中央駅から10分ほど歩くと、窓の少ない無機質なビルが集まるエリアが現れる。建物の数と大きさの割に人通りは少ない。この一帯では従来、金融機関の電算センターが並ぶのに加えて、アマゾンなど「ハイパースケーラー」と呼ばれるグローバル企業を主顧客と捉える大規模DCが、数多く立地、計画されている。Coltテクノロジーサービス(本社・英国)が4棟目を建設中のほか、グーグル、SCSK、三菱商事と米企業の合弁会社など国内外の大企業が計画を進行。大和ハウス工業は2025年までに14棟、延べ33万m²を整備する計画だ。
市役所には企業誘致を望む全国自治体からの問い合わせが絶えないという。印西市はなぜ、これほど多くの企業を引きつけているのか。
一つは恵まれた外的条件だ。地盤の固い洪積台地上に位置し、西には数千万人のインターネット利用者がいる首都圏がある。東の太平洋側を見れば茨城県北部と千葉県南部に陸揚げ局があり、北米をはじめとする世界各地と海底ケーブルでつながっている。上下水道や電力、通信などの管を一括収容する共同溝が整備されていたこと、開発事業者の広大な土地が未利用のまま残されていたことも有利に働いた。
行政トップの動きも大きかった。集積が始まる数年前、外資系事業者から「大規模DCを立地したいが電力供給を懸念している」と相談された板倉正直市長が、電力網増強を東京電力に働き掛けたのだ。変電所の新設候補地も案内したという。
東電の動きも速く、今や市内各地で変電所や電線トンネルの工事が急ピッチで進む。県内の火力発電所から供給を増やす計画だ。作業員によると24時間体制の現場もある。近隣のタクシー運転手は「電力関係やDCの建設現場に客を運ぶことは多い。バスに乗っている作業員の姿もよく見掛ける」と話す。
そんな印西でも電力逼迫(ひっぱく)が既にささやかれ、Coltの武藤健ディベロップメントディレクターは「もはや供給できなくなるという話もある」と懸念する。電力供給がDC立地の鍵を握るのは、首都圏や地方を問わず共通の課題だ。
DC集積が市政に与える影響を見ると、まず税収増が挙がる。高額なサーバーが所狭しと並ぶため、物流施設などの増加と相まって市の固定資産税は数十億円単位で増えるともいわれる。税収増は道路など社会資本の整備に還元される見通しだ。
一方、雇用面のインパクトは税収ほどとはいかないようだ。市の関係者は「雇用が大きく増えたという話は聞かない」と語る。DCは物流施設などと違って多数の人が働く場所でないからだ。
そのため、DCが今後地域になじんだ施設となるには、まちづくりの中に組み込む視点が重要となる。東大大学院の江崎浩教授は「排熱を近隣の病院に送るなどDC活用の事例は相当増えていくだろう。災害時の自家発電装置を備えるため、いざというときは避難所にもなり得る施設だ」と話し、DCを含むエコシステムの出現を見通す。
DCの地方分散という流れの中で北海道での大規模施設の立地には大きな可能性がある。現実に海底ケーブル敷設や電力網強化などの条件が整った印西では、今まさに集積が起きている。地域経済やまちづくりの活性化につながる一大構想は、DC事業者や電力会社、自治体、学識者らの強い連携によってもたらされる未来がある。