求める人材像を明確に、具体的基準設定
講師=伊藤雅之氏(人事労務コンサルタント代表)
■日本は年功序列が基本
会社は求める人材像として、「専門知識を有する」「的確な判断力を有する」「自分で考えて行動できる」「チャレンジ精神がある人」などを掲げるが、どれも曖昧。自分で考えて行動できる社員は暴走するかもしれない。チャレンジしても失敗ばかりでは困るだろう。
日本では長年にわたり学歴、年齢、勤続年数が人事考課のベースになってきた。そして定昇で差を付けるため基準になる社員を選び、相対評価でプラスマイナスする。具体的な基準はなく、感覚的に比較するだけ。
いまは学校の成績も絶対評価。何ができて何ができないのか明確で、若者はそれに慣れている。会社から何を求められ、自分が何をしたらいいか分からないと仕事をしているふりをするようになる。そんな社員ばかりでは会社が成り立たない。
■基準は明確に
ある企業は能力評価で毎年、「業務上の工夫改善を行おうとする建設的な思考能力」を非常に優れている、優れている、普通、やや劣る、劣るの5段階判定していた。建設的思考能力とは? 非常に優れていると優れているの違いは? ややとはどの程度劣るのか? まるで禅問答。また一度認められた能力が次の年に大きく下がることはあり得ない。評価項目が毎年同じでいいはずがない。
評価する側もされる側も、基準が分かっていないのが実態。だからブラックボックス化する。そんな組織では不満が募るし、評価を覆したいと思えばごますりが横行する。上司にしてもすり寄ってくる部下はかわいいし、基準が曖昧なので評価が甘くなる。
■目標管理制度の穴
目標管理制度には落とし穴がある。現状の多くは個人が立てた目標の志が高くても低くても達成できれば同じ配点。これでは低い目標ばかりになって当たり前だ。
目標の貢献度(重要度と困難度)に応じて配点を変え、高い目標に挑戦して達成できなくても低い目標を達成した者より点数を与えるという運用上の配慮が必要だが、手間が掛かるので中小企業にはお勧めしない。
■若者の定着・成長へ
若い人たちに定着・成長してもらうには、納得できる評価基準が欠かせない。会社が求める人材像を明確にした上で、習得すべきスキルと取るべき行動を分けて職種別、グレード別に設定する。基準は客観性、具体性を備え、明確に○か×で評価できるようにするべき。
全職種・グレードの考課表を公開すれば、他の部署や上司たちには会社から何を求められているかが理解でき、社内の相互理解が進む。結果を本人に明示すれば、○を取得できなかった項目を頑張ればいいと分かるので成長が期待できる。
スキルではクリアできた項目を順次評価対象から外していき、全て達成したら次のグレードに昇格する。行動に関しては、条件に当てはまらない項目を評価から除外する配慮を。たまたまその種の仕事に遭遇しなかっただけなのに減点されると不公平感が募る。
自己考課を加えることもポイントで、上司との評価が割れた場合は両者で協議して決める。これにより本人の納得性も高まる。