本道の道路投資、めりはり付けて 防災面なども含め判断を
北大大学院工学研究院(土木工学部門交通ネットワーク解析学研究室)の内田賢悦教授が、5月末で8年間務めた道の公共事業評価専門委員会の委員を退任した。この間、公共事業は既存ストックをいかに維持・更新し、長寿命化を図っていくかという方向へのシフトが一段と進み、激甚化・頻発化する自然災害に対応する防災・減災対策を重視する傾向も強まっている。内田教授に公共事業を取り巻く環境の変化と委員会での活動を振り返ってもらうとともに、今後求められる姿について聞いた。(聞き手・建設行政部 古関暁典記者)
内田教授は、同委員会で委員を4年、副委員長を2年、委員長を2年務めた。全国的に自然災害が激甚化・頻発化してきた頃でもあり、道内では2016年に連続台風、18年には北海道胆振東部地震などが発生。現在も防災・減災は重要なキーワードとなっている。
委員会では建設部、農政部、水産林務部の事業を評価してきたが、「国策として進めている農業関連の事業が多いという印象。防災・減災が重視されているというのも変わらない」と振り返る。近年は自然災害が起きるたびに設計基準が変更され、事業の枠組みはそのままで規格が変わり事業期間が延び、いつ事業が終わるんだという指摘もあった。「今後、気候変動でもっと大きな影響が出てきたとき、そのレベルの災害に全部対応できるようスペックを変えていくのはなかなか難しいのでは」と自然災害に対応する難しさを語る。
公共事業を評価する上で必要なことについても指摘。「評価専門委員会は事務局を道庁職員が務め、評価される側も道庁職員なので、事務局が中立性を保たないと外部評価は形骸化し、問題点が見えなくなってしまう。関係部局に嫌われるくらいやらないと、儀式化されることになりかねないので、事務局にはそういう姿勢が求められる」と中立性の重要性を説く。
今後の公共事業に関しては「少子高齢化、社会保障費の増加などを考えると、新しく道路を造ることなどは難しくなっていく。維持更新をした上で道路がつながっていないところに投資するなど、めりはりを付けていかないと道路ネットワークを維持するだけでも困難なことが予想される」との見通しを示す。
また、積雪寒冷地である北海道は冬の移動時間が読めないため、不確実性を小さくする道路投資は非常に大切であるとし、「普段あまり使われていなくても防災の観点から必要な道路はあるので、きっちりと選んでやっていかなければいけない」と費用便益だけで事業を判断すべきではないとも強調する。
建設業界の若手人材不足にも言及。「今は土木関係の学部の学生でも銀行などに就職することがある。私も就職指導を担当しているが、明らかに土木という就職先を選ぶ学生は昔より減ってきている」と意識の変化を指摘した上で、人材獲得には「女性が活躍でき、誰もが気持ちよく働ける環境づくりが必要」と話す。
DXなど新たな動きへの対応も重要で「土木、建築に特化した人だけではなく、情報系の人も入れていかなければいけない」と提唱。自身も出身が経営工学で、修士課程は北大大学院システム情報工学だったが、博士課程から土木系の都市環境工学に進んだ。「情報工学などに長(た)けている人が土木、建築にも求められる。いろいろな人が入ってこない業界には将来がないのでは」と述べ、他分野の人間が交流することで起きる化学反応に期待する。