深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り MISK 佐藤郁文社長

2022年07月25日 10時00分

佐藤郁文社長

社員の成長 生かす場を

 ザンギの老舗と聞いて、札幌市中央区の市電通り沿いにある「中国料理 布袋」を浮かべる人も多いだろう。同店を運営するMISK(ミスク、本社・札幌)が今春、西区山の手に「布袋スイーツ 毘沙門天」を開いた。コロナ禍に対応するテークアウト専門の新業態で、クレープを主力に滑り出しは上々という。2代目社長の佐藤郁文氏(41)に経営戦略を聞いた。

 ―中華の有名店がなぜスイーツ専門店を。

 当社は布袋本店以外にも現在さまざまな店を持ち、菓子店の構想もずっと以前からあった。父の勲が25年前に個人事業で布袋を始め、10年過ぎたころに家族で話し合って株式会社登記したのがMISKだ。社名は家族5人のイニシャルの組み合わせで、父と私が同じI。Mは弟の雅宏で、少年時代から菓子職人を目指していた。今はパティシエとしてベルギーで修行した経験も持つ、この弟が新店の店長を務めている。

 ―クレープを看板商品にしたのは。

 誰もがよく知る食べ物なのに、「クレープならこの店」と人々の意見が一致するような代表店は確立されていないように思う。パティシエが本気でつくるクレープを提供し、代表店と目される存在を目指したい。

 当社は業態によって七福神で店名を分けることにしている。布袋は中華で4店あって、初のスイーツは毘沙門天。寿司と中華を融合させた「福禄寿」1店、点心の「弁財天」1店もある。

 ―新店ではスイーツ以外に中華料理も持ち帰れるようだが。

 正確に言うとスイーツ店だけでなく、ザンギや肉まんを売る店「布袋さんの中華まん」を同じ場所でオープンさせた。後者は布袋シリーズの1店という位置づけだ。中華とスイーツの相乗効果を探ろうと、あえてこの2業態をセットにした。

 売り上げの推移を見ると、昼はスイーツ、夕方からはザンギと時間帯で売れ筋が入れ替わり、それぞれの繁閑を補えることがわかってきた。もう少しノウハウを学べば、商業施設へのテナント出店も視野に入ってくる。

 ―今回の開店資金には政府のコロナ対策、事業再構築補助金を使っている。コロナの影響は大きかったか。

 布袋本店は昔から全品持ち帰り可にしていたため、落ち込みは比較的小さかった。だがほかは厳しく、会社全体でかつてなく大きな減収を経験した。ただ、ゼロゼロ融資をはじめ支援制度をできる限り使った結果、社員に給料を払い続け、出店もできた。今春以降は人出が増え、ようやく売り上げが戻り始めた。

 ―一方インバウンド観光客はまだまだだ。

 どの店も外国人客はコロナ以前から少なく、影響はない。日本人客も地元の人々が大半を占める。道外から来道して食べたいものは海鮮、ラーメンなどいくつか挙がるが、ザンギは最上位グループに少し届かない。観光客頼みの商売でなかったために助かった面もある。

 ―今後の出店計画は。

 決めていない。いつまでに何店、年商いくらといった目標を掲げるのが最近の経営の定番かもしれないが、私は社員が成長したらそれにふさわしい活躍の場をつくる、という考えで、出店はその一手段だ。経営目標ありきではなく、社員ありきを原則にしている。

 ―社員の成長とは。

 何か一点だけでも昨日よりよくなる、上手になることを呼び掛けている。これは私が中華の料理人で、職人気質である点も関係するのだろう。例えば食材の切り方でもいい。毎日少しずつうまくなれば、1年たてば大きく上達している。

 社員数は今パートタイマーを含めて70人強で、まだ一人一人とコミュニケーションを取れる規模だ。個々の対話を大事にしながら、私なりのやり方で会社を成長させたい。

 (聞き手・吉村慎司)

 佐藤郁文(さとう・いくふみ)1980年12月札幌生まれ。札幌明清高(現・北海道文教大学付属高)食物科卒業後、約10年東京の中華料理店で働く。札幌に戻って家業の「布袋」で働き始め、2012年にMISK社長。

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