Wi-Fiで複数人が同時参加 ネクステラスが安全教育に活用へ
仮想現実(VR)制作を手掛けるキシブル(本社・札幌)は、インターネット接続せずに複数人が同時参加できるVR教育共有システム「iVRES」を開発した。VRゴーグルをWi―Fiルーターを通じてつなげる仕組み。これを活用して建設ICTのネクステラス(同)が土木現場の安全教育に乗り出し、建設DX(デジタル・トランスフォーメーション)を加速させる。

Wi―Fiルーターでゴーグル同士をローカル接続し、VR体験を複数人で共有できる
キシブルは2020年設立のベンチャー企業。モデルハウスVRなどビジネス向けのコンテンツを手掛けてきた。
iVRESは、360度カメラで撮影した映像を親機のVRゴーグルで事前に読み込み、会場に集まった参加者のVRゴーグルと接続することで映像体験を同時に共有可能。ネット回線を使わないため、電源がある室内ならどこでも利用できる。
ルーターの性能によるが、一度に通信できるVRゴーグルは5―10台。参加者はアバターでコミュニケーションが取れ、映像上にメモを残せる。360度カメラの映像であれば、利用者が撮影したものでも編集せずに視聴できる。
開発の発端は医療分野での人材育成だった。エックス線照射には国家資格が必要なため、学生は実習で本格的な行為ができず、資格取得後に患者で実践するしかない。
キシブルは北海道科学大と連携し、エックス線撮影現場をCG化。「バーチャルX線撮影トレーニング」として21年1月に共同開発した。併せてVRゴーグル同士をローカルWi―Fiでつなぐ技術を確立した。
また、動物の体の構造を学ぶためにする犬などの生体解剖が倫理的に問題なのではとの指摘がある。そこで山口大と連携し、解剖の様子を360度カメラで映像化。バーチャルX線撮影トレーニングのCGをカメラ映像に組み替えることで、iVRESを3月に開発した。
医療分野では患者の個人情報を扱うため、外部のサーバーを介さないiVRESは厳重なセキュリティー対策が不要な点もメリットだという。デバイスに読み込む360度映像を変えれば、あらゆる分野に展開できる。
これを土木の安全教育に応用しようと、キシブルとネクステラスが販売協力関係を結んだ。興味を持った札幌市内の建設業者がいたことから、製品提案を本格化させる。ネクステラスの木下大也社長は「映像にメモを残せるのでKY活動やヒヤリハットの知識を蓄積できる。安全教育や現場見学をVRに置き換えられれば」と期待する。

ダンプトラック運搬作業時ヒヤリマップのVRイメージ
VR機器にはiVRESの開発協力をしたPico社の製品、360度カメラにはInsta360社製のアクションカメラを提案。システム導入は70万円で、1台4万円のVRゴーグル費用を台数に応じて加算する(税別)。キシブルの岸敬介社長は「今後も開発・改良し、アップデートにも無償対応したい」とフォロー体制を整えている。