生産性向上フォーラムから
デジタル化が叫ばれる近年、業務での生産性向上の取り組みは不可欠になっている。一方で、むやみにデジタル化を推し進めると従業員の負担増にもつながりかねない。帯広市内で開かれた生産性向上フォーラムで専門家らは「必要なのは、まず現状の見つめ直し。無駄が多いとデジタル化以前の話」と指摘。本当の目的を見失わない企業姿勢が問われる。(帯広支社・草野健太郎記者)
フォーラムは北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)や帯広商工会議所など4者が7月27日に全道で初開催した。北海道電力、NTT東日本、NTT東日本北海道、ノーステック財団の担当者が登壇し、それぞれの専門テーマについて説明。管内企業などから約80人が参加した。

会場ではDXの一例で自動走行ロボットの展示もした
業務の無駄を削減する「カイゼン」に注目が集まる。北電の戸江斉也カイゼン推進室長は「プロセスの中にある無駄を見つけることが重要。どんな業務でもカイゼンできる余地はある」と話す。人がする行動には必ず無駄が生まれるという。当たり前と思い込まず、客観的に見つめ直すのが鍵になる。
戸江室長は「カイゼンをせず新技術を導入するのは危険。業務と無駄が増えるだけで、ただの労働強化になる」と指摘。「重要なのは無駄の比率を少なくすること。物事の真因を追求すれば、根元には無駄が存在する」と訴えた。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)は近年よく聞く言葉になった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で広がりを見せる。北電情報通信部の田村圭司DX推進グループリーダーは「北電グループでは、デジタルを使った業務変革と位置付けている。現場の省力化につながらなければ意味がない」と話す。デジタル化が目的ではなく、根元にある業務効率化を見失わないことが重要だ。
サイバーセキュリティーも大きな問題になっている。近年猛威を振るうEmotet(エモテット)。正当なメール送信者になりすまし、受信者にファイルを開かせて情報を集めるマルウェアだ。NTT東日本北海道東支店の北垣雅之支店長は「本当に巧妙化している。大企業や有名企業だけが狙われるわけではないため、細心の注意が必要」と呼び掛ける。しかし、実際は対策があまり進んでいないという。課題として、社内体制が整わないこと、資金・人材不足などを挙げた。
政府はデジタル田園都市国家構想推進交付金で地方のデジタル化を推し進める。道内でも更別村のスーパービレッジ構想が採択され、関心は高まっている。
構想では公衆無線LAN整備や公共交通機関の予約や予防診療などをパッケージ化した「更別型ベーシックインフラサービス」を展開。根元にあるのは、村民生活の不便を便利に変えるという目的だ。
カタカナ言葉の羅列では伝わりきらない。身の回りにあふれた無駄に気付くことから本当のデジタル化が始まる。