公共・民間投資の変遷 過去15年のゼネコン道内受注高

2022年08月16日 08時00分

アベノミクスで建設投資復調 国土強靱化や新幹線工事も

 北海道建設新聞社が独自調査しているゼネコン道内受注高を基に、2007年度から15年間の公共・民間投資の変遷をまとめた。リーマンショックや民主党政権下の公共工事削減など建設投資が落ち込んでいた冬の時代を越え、12年12月に自民党が政権を奪回したことを契機に、経済政策「アベノミクス」が始動。国土強靱化やインバウンド需要、北海道新幹線工事の活発化も重なって息を吹き返し、18年度には上位50社受注総額が過去最高の7740億円に到達した。21年度もコロナ禍が続く状況下で18年度に次ぐ7279億円を確保した。(建設・行政部 大坂力記者)

 本社が毎年度実施しているゼネコン道内受注高調査の推移を分析。集計方法を暦年から年度に変更した07年度から21年度までの上位50社受注総額をまとめた。

 5916億円だった07年度から、その直後のリーマンショックや民主党政権誕生など日本の政治、経済が転換期を迎える。受注総額も右肩下がりとなり、11年度に4312億円と底を突いた。

 リーマンショックのあおりを受け民間建築が09年度に1770億円、民間土木が10年度に497億円、「コンクリートから人へ」の方針の下、公共工事の大幅削減により官庁建築が10年度に251億円、官庁土木が11年度に1243億円とそれぞれ最低値を記録した。

 そもそも2000年代当初から小泉純一郎政権の公共事業削減により受注量が低迷し、上昇の兆しが見えない時期が続いていた。しかし、12年12月に自民党が政権を取り戻し、安倍晋三氏が首相に返り咲いたことで状況が変わる。

 12年度自体は、11年3月に発生した東日本大震災を教訓とし、災害に強いインフラ整備を緊急に進める「全国防災」を含め、北海道開発事業費は増額に転じ、民間投資もリーマンショックから復調したことで4年ぶりに5000億円を突破した。

 第2次安倍政権は13年度以降、デフレからの脱却と富の拡大を目指した経済政策「アベノミクス」を本格的に展開。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略からなる「3本の矢」を設定し、第2の矢に当たる財政政策では約10兆円規模の経済政策予算により政府が自ら率先して需要を創出した。

 その結果、13年度の受注総額はさらに1000億円以上伸ばし6000億円台に達した。民間については、消費税8%引き上げに伴う駆け込み需要や、東日本大震災によって国内の電力供給事情が変わり、再生可能エネルギーが注目される中、各地でメガソーラー建設が相次いだことがプラスに働いた。特に民間土木は826億円で15年間の最高額となっている。

 北海道開発局長、道局長を務めた吉田義一氏は13年6月に北海道建設業信用保証の社長に就任。当時は保証請負額がピーク時から3分の1に落ち込み、やっと底を打った時期だった。「右肩下がりの時はどこまで下がるか分からなかった。機械を手放したり、会社をどこで閉めようかと考えている会社も多かった」と振り返り、「下落が続けば災害対応も期待できないような状況になったのではないか」と不安を明かす。その後、受注が復調し、建設業が何とか持続できたことに安堵(あんど)した。

 その後も受注総額は5000億―6000億円台で推移するが、18年度に最高額の7740億円を記録した。16年8月に発生した連続台風に伴う災害復旧関係事業が相次いで発注されたほか、北海道新幹線のトンネル工事も本格化。ニセコ地区を代表とするインバウンド観光への投資も盛んになり、民間建築では最高額の4413億円に達した。

 以後は、19年10月の消費税引き上げや20年初頭からの新型コロナウイルス流行など、国内経済に大きく影響するトピックがあったものの、18年9月に起きた北海道胆振東部地震に伴う災害復旧や、防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策、後継事業である防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策などで公共工事を一定量確保でき、6000億円台を維持した。

 20年度は、設計・工事に約390億円を投じる札幌市の駒岡清掃工場更新が発注されたため、官庁建築で719億円を計上し過去最高となった。

 直近である21年度は18年度に次ぐ7279億円。官庁土木は最高額の2268億円だった。

 今後を見通すと、これまでの大きな伸びの要因となっていた北海道新幹線の大型工事はあらかた発注が済み、現在、活発になっている札幌中心部の再開発事業も30年度の北海道新幹線札幌延伸開業までに1つのピークを迎えるだろう。北海道開発事業費についても近年、横ばい傾向が続き、下支えしている加速化対策は25年度までと期限が定められ、今後の強靱化対策の見通しは立っていない。

 北海道を取り巻く状況は決して明るくはない。だが、食料基地としての役割やインバウンド観光、ゼロカーボン実現に向けた再生可能エネルギー開発など、これからの日本を支えるだけのポテンシャルを秘める。これらの施策を最大限効果を発揮するためのインフラ整備を推し進めていくべきだ。

 北海道建設新聞2022年8月10日付1面には、2007年から2021年度までの受注高を内訳別にまとめた表と、年度ごとの受注高内訳と主な出来事をまとめたグラフを掲載しています。閲覧は新聞本紙をご覧ください。

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