本間純子 いつもの暮らし便

 アリエルプラン・インテリア設計室の本間純子代表によるコラム。

 本間さんは札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第2木曜日に掲載しています)

本間純子 いつもの暮らし便(23)夏の音

2022年08月16日 10時32分

 今年はセミの発生が遅いとのコメントが、ラジオから流れてきました。そういえば、シャーシャーというエゾハルゼミの大合唱を聞かないまま、夏に入ってしまったような気がします。

 私は虫好きな方ではなく、種類によっては出合った途端に、「キャーッ!」と叫んで逃げてしまうタイプです。でも、セミやコオロギ、キリギリスは嫌いではないようで、子どもの頃、いとこたちにコオロギを捕まえてもらって、しばらく飼育していたことがありました。羽をすり合わせて歌う様子はとてもおもしろく、飽きずに眺めていたことを思い出します。虫そのものより、奏でる音やそのテクニックに関心があったのかもしれません。

 7月の中頃、久しぶりにセミの抜け殻を見つけました。ゴミ出しから帰ってきた時だったので、なんとなくご褒美をもらったような、うれしい気持ちになりました。セミに詳しい方ではありませんが、どうもエゾハルゼミのようです。わが家の大きな植木鉢のすぐそばに落ちていたので、もしかしたら、この植木鉢で2年間を過ごし、成虫の3週間をスタートさせたばかりだったのかもしれません。合唱団の一員になって、シャーシャーシャワワワワワー(のように聞こえる)と歌っているのでしょうか。「植木鉢出身かも」と思うと身内のような気がして、聞き入ってしまいます。

 ところで、この天然のBGMとも言える虫の声も、雨や風の音も、外国人には騒音や雑音に感じると知った時は、「なぜ」と疑問符がいくつも立ちました。確かに、子どもの頃、海辺の祖母の家に泊まった時は、波の音が気になって眠れませんでしたし、大音量のカエルの合唱は、騒音かもしれません。自然の音は、心地よいばかりではないようです。

 私たちが、虫の音、風の音、雨の音を騒音や雑音に感じないのは、日本語を母語として育った人の特徴であることが、東京医科歯科大名誉教授の角田忠信氏の研究で明らかになっています。こういった自然由来の音を雑音として捉えていたら、短歌や俳句は成立しなかったかもしれないし、演劇の効果音も別の表現方法が取られていたかもしれないと言います。なんとも不思議な私たちの脳の仕組みです。

 江戸時代には鳴く虫を売り歩く商売がありました。浮世絵には、スズムシ、マツムシ、クツワムシの看板付きの屋台が描かれています。雑音と感じたら、商売にはならなかったでしょうし、騒音のために駆除されていたかもしれません。今でもコオロギやスズムシは美しい音色が人気です。「虫の声を聞く」は、外国人には理解しがたい日本文化のようです。

 夜、窓を開けると夏の音が聞こえてきます。花火の音、虫の声、盆踊りの曲。昼間より交通量が少ないせいか、一つ一つの音がクリアです。そして、近くの草むらでは、虫の演奏会がたけなわ。雨天順延、聴きたい放題、無料です。これは日本語が母語の人だけの季節限定の音楽会。あなたにもこの音、届いていますか?


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