本間純子 いつもの暮らし便

 アリエルプラン・インテリア設計室の本間純子代表によるコラム。

 本間さんは札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第2木曜日に掲載しています)

本間純子 いつもの暮らし便(24)手描きパースの不思議

2022年09月08日 17時37分

 自分が思い描くイメージを、言葉だけで伝えるのは難しいですね。特に形や柄、家具レイアウトの説明文は「ちゃんと伝わるかしら―」と不安になることがあります。絵にすると一目瞭然なんですが、このコラムはそうはいかず、私の国語力が毎回試されています。

 インテリアの仕事では、言葉はもちろん、絵や写真、現物サンプルなど、視覚情報を総動員して伝えたいイメージを表現できるので助かります。その中で、私が頼りにしている実力派がインテリアパース、完成予想図です。

 完成予想図は、空間を立体的に描く透視図法で描かれるので、「パースペクティブ(パース)」と呼ばれます。近くのものを大きく、遠くのものを小さく描く遠近法が基本ですが、不自然に見えない「好い加減の大きさ」と「好い加減の角度」に、描き方のこつがあります。これが結構厄介で「パースは見て分かりやすいけれど、描くのは難しい」と言われます。

 そのため、インテリアコーディネーターやデザイナーのサポート役として、パースを描くアプリケーションがたくさん作られました。写真のような仕上がりも望めるのですが、私はいまだに手が伸びません。手描きに固執しているわけではないのですけれど―。

 私が仕事でパースを描くシーンの一つは、施主と打ち合わせの時。お客さまと向かい合い、床がお客さまの側になるようにフリーハンドで描きます。天井は私側、つまり、私は上下逆さまに描くのです。はじめは「?」という顔をされますが、ある瞬間に「!」の表情に。難解な図面が、一気に理解可能な空間になる。まるでパースの魔法です。

 工事監督や職人さんとの細部打ち合わせの時も、現場でパースを描きます。収め方やデザインを現場に伝える方法の一つで、紙に描いて渡すと、しばらく黙って眺め「わかった」と一言。数字は入っていなくても、パース通りに作り上げる大工さんの才能に感服です。

 オフィスでじっくり描くこともあります。色彩や形状のバランス、素材の組み合わせを考える時、パースを描きながらインテリアを組み上げていきます。パソコンの画面で色や素材を変換させた方が、作業は早そうですが、手でパースを描いている時の私の頭の中は、描いている部分に集中しているわけではないらしいのです。

 手描きのパースは、鉛筆で線を書いている時も、マーカーや色鉛筆で色を乗せている時も、描いている部分以外のことも考えています。例えば、カーテンを描きながら、生地、縫製、取り付け方法だけでなく、空間全体を俯瞰(ふかん)し、作業工程の手順のシミュレーションもしています。パソコンを使っている時は、そういうことができないのです。

 実は手描きパースには、お得な側面があります。完成した空間とパースを見比べた時、写真のようなCGでは「ここが違う」と間違い探しが始まりますが、手描きパースは少々違いがあっても「イメージ通り!」と言ってもらえます。決して甘えているわけではないのですが、私たちが持っている寛容さのなせる技かもしれません。


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