誘致から37年の時を経て ロケット打ち上げで変わりゆく町

地鎮祭出席者から宇宙への大きな期待が寄せられた(大樹町提供)
1985年、北海道東北開発公庫(現日本政策投資銀行)が掲げた「北海道大規模航空宇宙産業基地構想」で町が候補地となり、宇宙基地誘致に乗り出した。南東に打ち上げられる広大で平坦な土地、海外よりも射場が市街地に近いという地理的な強みがある。
95年には多目的航空公園を建設。延長1kmの滑走路を構え、企業や研究機関が実験に活用している。今後は現滑走路を300m延伸し、延長3kmの滑走路新設も計画している。
2013年にベンチャー企業のインターステラテクノロジズ(IST)が町内を拠点に設立。低価格で便利な国産ロケットの開発を進め、打ち上げ実験を重ねる中で全国から注目を集めた。19年5月にはMOMO3号機が国内民間企業初の宇宙空間到達を達成。現在は人工衛星軌道投入ロケットZEROの開発も進めていて、その取り組みに道内外から多数の企業団体が支援や技術協力の手を差し伸べている。
ISTの実験以降、大樹の町は大きく変わった。18年からはコンビニやスーパーが町内に進出した。中でもサッポロドラッグストアー(本社・札幌)は人口などが出店基準未満だったが、宇宙産業への期待感から店舗を新築。通常8000―1万人で1店舗が成り立つドラッグストア業界だが、人口約5500人の大樹町でも利益を上げている。
人口減少にも歯止めが掛かった。55年以降、毎年減っていた人口は21年度に前年度比1人増に転じた。うち転出入による社会増減は47人増加。IST社員ら宇宙関連の移住者が多く、町内ではアパートを建設しても早期に満室となる状況だ。
宇宙港がもたらす道内への経済効果は年間267億円。ロケット射場運営会社「SPACE COTAN」の小田切義憲CEOは「年1機を安定して打ち上げる年度には達成し、回数が増えれば、それ以上の経済効果も期待できる」とみる。
コロナ禍以前のロケット打ち上げには、道内外から人口の半数近い2650人が町を訪れ、観光面での期待も高まった。一方、周辺施設やアクセス面での課題が浮き彫りに。宿泊地や人と物を運ぶ上で不可欠な帯広広尾自動車道の整備も重要。宇宙産業の恩恵を最大限受けるには、今後も建設業の力が必要となる。