道新幹線と空港連携を 北大名誉教授の佐藤馨一氏に聞く

2022年09月21日 08時00分

日本都市計画学会22年度功績賞受賞

 北海道の都市計画研究の第一人者である佐藤馨一北大名誉教授が、日本都市計画学会の2022年度功績賞を受賞した。佐藤名誉教授は道内の交通施策やまちづくりに深く関わり、とりわけフル規格での新幹線札幌延伸に導いた功績は大きい。佐藤名誉教授に北海道新幹線の役割や札幌延伸に伴う交通インフラの在り方について話を聞いた。(建設・行政部 大坂力記者)

佐藤馨一氏

 これまで新幹線の利用客は、JR在来線から転換する旅客数をベースに事業の成立を検討してきた。しかし北海道新幹線の場合、在来線の旅客数が少ないため着工順位が低かった。それに対し佐藤名誉教授は航空機から新幹線への転換率モデルを考案。新幹線が航空機に比べて時間がかかっても、多くの航空客が新幹線に転移することを予測し、北海道新幹線が事業として成立することを明示した。

 また、航空機と比較して新幹線の二酸化炭素の排出量が大幅に削減されることも指摘。「人一人を運ぶときのエネルギーが新幹線と航空機では全然違う。環境を大事にするSDGsの時代に、速度は遅くても二酸化炭素の少ない交通機関を利用するべきだ」と強調する。

 さらに新幹線による貨物運輸も重要とし、「(乗客に主眼を置く)東海道新幹線のビジネスモデルは北海道では成立しない。北海道新幹線のビジネスモデルを新しくつくるべきだ」と発想の転換を促す。

 現在、ロシアのウクライナ侵攻など世界情勢が激変している。有事に備える意味でも新幹線や青函トンネルの役割は大きいとし、「日本国民が食に困らないようにするため、北海道で取れたものを確実に本州に運ぶ必要がある。新幹線で貨物を輸送することは日本の国防力を高めることにつながる」と主張する。

 北海道新幹線は30年度の札幌開業に向けて、トンネル工事が佳境に入りJR札幌駅でも10月から構内の新幹線高架橋工事に着手する。

 開業後の交通体系の在り方として「来札した乗客がどこに行くかを考えなければならない」とし、JR在来線やバスの利便性を高めるとともに駅レンタカーの需要にも注目。札幌市中心部の創成川通の高速道路から都心部までの約4.8kmを地下道路として整備する都心アクセス道路に期待する。

 また、滑走路延伸が検討されている丘珠空港の役割もポイントに挙げ、「札幌がビジネスの拠点になるためには丘珠空港を利用して全道で仕事ができるようにすること」と話す。観光だけではなくビジネスにも力を入れた足腰が強い都市を目指すよう訴え、「空港と新幹線がうまく組み合わさったら札幌のビジネス体力が付く」と強調する。

 整備新幹線の基本計画上の終点となっている旭川延伸については、上川管内で期成会が設立するなど整備計画路線への格上げに向けた動きが出ている。佐藤名誉教授は函館―札幌間の8割がトンネルで都市間の地下鉄に相当することを指摘した上で「札幌―旭川間もトンネルが多い新幹線を造れば、どんなに雪が降ろうが都市間交通は確保される」と提案。大雪で交通網が寸断される冬場でも安全に行き来できることが大切だと強調する。

 佐藤馨一(さとう・けいいち)1944年青森県弘前市生まれ。67年北大工学部土木工学科卒業。92年同大土木工学科教授、07年同大大学院工学研究科北方圏環境政策工学専攻教授などを経て、08年4月に同大名誉教授。これまでの研究を通じて北海道の開発や交通に大きく貢献したことから、22年6月に日本都市計画学会功績賞を受賞した。

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