観光客の町内滞在延ばしたい
「宇宙産業には無限の可能性がある。役場で働いてみて、先人たちの取り組みが今に至ると実感する」と話すのは、大樹町役場企画商工課航空宇宙推進室の吉田たすくさん。8月に日本旅行(本社・東京)から派遣され、町の観光戦略を担っている。中国の上海、北京支店での勤務を経て赴任。「ないものねだりをしても前に進まない。今できることを着実に推進し、観光客の町内滞在時間を長くしたい」と未来図を描く。(帯広支社・草野健太郎記者)
宇宙産業を観光、まちづくりに活用するため、日本旅行とSPACE COTAN(本社・大樹、スペースコタン)、大樹町がパートナーシップ協定を締結。連携強化に向け、総務省の地域活性化起業人制度を活用して派遣に至った。
吉田さんは、日本旅行の海外戦略強化を目的に2019年3月から上海支店、21年11月からは北京支店で勤務した。しかし、20年1月に発生した新型コロナウイルスにより大打撃を受けたという。
中国語が全く話せない中での赴任。言語の習得は不可欠と考えた。現地で生活しながら学び、「先生にも恵まれ、HSKという語学検定の最上級(6級)を取得できた」と振り返る。ただ「仕事をしてみると、中国語を使う場面は思った以上に少なかった」と笑う。
町役場では観光戦略を担う。「町内滞在時間を長くしたい」と将来像を描くが、課題は宿泊施設や団体客向けの飲食店不足だ。「ないものねだりをしても前進しない。十勝全体に目を向ければ、可能性は広がる」と前を向く。
町の宇宙関連インフラは、全国的に見ても貴重だ。特に北海道スペースポートの1000m滑走路は、全国の宇宙ベンチャーが実験で使用するなど「可能性の宝庫」とみる。
交流人口の増加に向けて「宇宙と教育」の掛け合わせは一つのテーマだ。最先端技術を近くで学べるほか、滑走路でフィールドワークできる環境も魅力的。「若い人に来てもらうきっかけがほしい。音楽フェスなどZ世代向けのイベントをしても面白い」と構想を練る。町の基幹産業である「農業」との組み合わせにも可能性を抱く。
インターステラテクノロジズ(本社・大樹、IST)の進出は大きい。創業者である堀江貴文氏の知名度や、ロケット打ち上げ実験成功などで全国的に注目を集めた。ISTの工場や射場への関心も高く、宇宙産業参入を目指す企業や先進技術を取り入れる自治体からの視察申し込みは多いという。
町民目線の重要性を訴える。「宇宙をより身近に感じてもらう工夫が必要。局地的に盛り上がっても無意味」と指摘。今後については「スペースコタン、ISTなどと連携して町全体を巻き込みたい」と意気込む。
吉田たすく(よしだ・たすく)1977年7月8日生まれ、大阪府交野市出身。関西学院大大学院経営戦略経営科卒業後、2000年にJR西日本へ入社。01年、日本旅行との提携で転籍した。大樹町への派遣は22年7月1日から23年3月末まで。家族を残して単身赴任中。趣味は登山。