本間純子 いつもの暮らし便

 アリエルプラン・インテリア設計室の本間純子代表によるコラム。

 本間さんは札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第2木曜日に掲載しています)

本間純子 いつもの暮らし便(25)Something Old

2022年10月14日 09時00分

 ヘリテージマネジメント講座の受講がきっかけで、建物の文化財保護について学ぶようになりました。かれこれ10年ほどになります。文化財の対象となる築50年以上の建物は、当時の施工技術や建築材料を示してくれる、まさに建築博物館のような存在です。その時代の建物の構造や高い意匠性は、文化的価値に直結しますが、残念ながら、全てが文化財の指定を受けるわけではありません。

 カトリック北一条教会司教館(旧大島邸/札幌)は、2018年に解体されました。文化財指定を目指していたのではありませんが、解体直前に内部を調査する機会を得ました。住宅から司教館に用途を変更した際、改装されたこともあって、竣工当時の様子が不明なところはありましたが、建物は良い状態でした。

 旧大島邸は、玄関脇に洋間を配置した当時流行の間取りで、そこは応接間として使われていました。縦に細長い窓がリズミカルに並び、腰壁が洋風なデザインを強調しています。腰壁の羽目板や框(かまち)ドアの鏡板はバーズアイメープルで、簡単に手に入らない貴重な材料です。間もなく解体され、産業廃棄物になる日が近いことを思うと、もったいなく、やるせない思いになりました。

 ふと、04年に解体された小樽のT邸を思い出しました。こちらも昭和初期の建物で、旧大島邸同様、来客用玄関の脇に洋間があり、やはり応接間として使われていました。状態はとても良かったのですが、維持管理が大変なため、コンパクトな家に建て替えることになりました。

 愛着があるこの建物から、お気に入りを再利用することになり、欄間、床柱、ふすまの引き手、照明器具のシェード、春慶塗りの格子戸などが、新しい家で第二の人生を過ごすことになりました。

 70年の年月を生きてきた欄間は、貫禄がありすぎるように感じましたし、春慶塗りの格子戸は、独特の赤い色が「インテリアの中で浮くのでは?」と気掛かりでした。でも、心配は無用でした。欄間の存在が新しい建物に落ち着きをもたらし、春慶塗りの格子は新たにあつらえたかのようなパーティションに生まれ変わりました。どれも当然のように所定位置に収まり、コーディネーターとしては再利用の価値を見直す機会になりました。

 結婚式の花嫁が身につけると幸運を招くという4つのSomethingがあります。新しいもの、借りたもの、青いもの、そして〝古いもの〟です。Something Oldには代々受け継いだものの意味があるそうですが、新築の家のSomething Oldにも同様の意味があるように思います。

 アンティーク、ヴィンテージ、レトロ。いずれも古いものを表す言葉で、インテリアの世界でも登場頻度が高くなりました。新品であっても木目の凹凸が感じられる浮造り(うづくり)風仕上げのフローリング、エイジング加工を施した家具など、古いものの参加を拒まないインテリアも人気です。あなたの家のSomething Oldは何ですか? ぜひ次の時代もご一緒に。


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