
巻口成徳代表理事
オープンIDでデータ連携
一般社団法人不動産テック協会(東京)は、不動産事業者とテック企業の橋渡し役を手掛けるほか、不動産オープンIDの開発で業界のDX化を促進している。物流など周辺業界ではIDを活用した新しいサービスも始まっている。巻口成徳代表理事(リーウェイズ社長)に今後の展望を聞いた。
-開発の経緯は。
不動産業界最大の課題はデータの連携不足だ。自治体や法務局、税務署はいまだに紙管理で、データベース化されていない。民間は近年デジタル化が進んでいるが、それぞれが独立したシステムを運営している。事業者は各所を回ったり、複数のクラウドにログインして情報を集める必要があり、1件査定するだけで平均15.5時間かかる。「虎の子」のデータを他者に渡したくないという業界独特の風潮も連携を遅らせている原因だ。
行政に切り込むには時間がかかるが、まずは民間同士の連携からという発想でスタートした。
-国土交通省は3月に不動産IDルールのガイドラインを示した。
登記簿記載の不動産番号をIDとして活用すると発表したが、1戸に複数の番号が存在するケースも多く、そのままトレースするのは現実的ではない。また、番号の取得方法も登記簿を基に代表地番を人力で探さなくてはならず非効率的だ。われわれは住所の表記ゆれをなくした〝正規化〟住所でオープンIDをつくり、利便性を高めている。
-オープンIDのデータ精度は。
現在は住所ベースで全国の99%を網羅できている。建物名の取得に難航したが、デジタル庁の住所オープンデータ2250万件と、国交省の座標付きの建物データ1100万件を取り込むことで解決しつつある。ただ、国交省の情報は2年ほどのタイムラグがあり、実際に生きたデータとして使えるかは今後の課題だ。
-不動産流通機構が運営するレインズとの差別化について。
レインズは中古流通情報のみで、一般媒介や売り主物件が登録されておらず、年間の不動産取引の1割程度しか見られない。登録情報も5項目と少なく、データ分析ができない。米国のマルチプルリスティングシステム(MLS)は税金情報、ハザードマップ、学区、町内会情報など、必須項目が500個ほどあり、正確な分析が可能だ。これだけの情報登録には省庁同士の連携が必須で、日本ではまだ難しい。
-IDを普及させるには。
不動産事業者に使ってもらえればベストだが、業界の裾野が広いため外堀から埋める。物流業者はオープンIDのデータを使い、オートロックマンションでの部屋前置き配サービスを実現した。損保・保険業界には、住民の契約情報を統合すれば物件内の火災保険の加入率を可視化でき、リスク管理につながると提案している。
-他にはどのような活用方法が。
工務店が持っている各物件の保守修繕履歴をID上で一元化できれば、安心安全な取引につながる。国交省が保管する衛星画像の夜間光情報と電気・水道・ガスのインフラ情報を関連付ければ空き家の特定も可能だ。さらに警察庁との連携で、オレオレ詐欺など空き家での犯罪防止にも貢献もできる。
英国では不動産IDを税金情報の管理に使い、税収が上がったという事例がある。まず民間に利便性を知ってもらい、ゆくゆくは各省庁との連携にも使ってほしい。
(聞き手・及川由華、武山勝宣)