各現場を飛び回り、建設業界を支えている一人親方。2023年4月から労働安全衛生法の改正で、請負人の定義に労働者を使用しない個人事業者も含まれることになる。法に守られていなかった一人親方の安全が確保される一方、現場での情報共有などが一層求められるようになるほか、元請けにとっても安全教育の義務が増えることになる。両者のさらなる安全への意識向上が求められている。(帯広支社・城 和泉記者)
21年5月に最高裁判決があった建設アスベスト訴訟を背景に、厚生労働省は23年4月から元請けに対して、一人親方など労働者以外への一定の安衛対策を義務付ける。安全確保のための設備の稼働に対する配慮や、作業方法・保護具使用の周知義務などを定める。危険・有害作業を行う場所への立ち入り禁止や入退室管理などを表示することも求める。
一人親方は法律上、労働者ではないため、関わる事故の実態をつかむのは難しい。しかし、建設現場では一人親方の災害も多数発生している。帯広労基署の土谷啓二郎署長は「十勝でも通報を受けて現場に駆けつけたところ、被災者が一人親方だった例がある」と話す。ことしも足場からの墜落があったが、労災にはカウントされなかった。
現場の規模を問わず、一人親方は各地で活躍している。例えば、木造住宅の新築現場では、内装工事などで複数の一人親方が同じ空間で作業する場面もある。十勝住宅建築協会の岡田英樹会長は「一人親方は欠かせない存在。元請けが安全に配慮するのは鉄則」とする。どれだけ小規模な建物であっても全く同じ現場はないが、昔なじみの職人であれば、説明をおろそかにしてしまいがちだ。
作業内容や使用する溶媒の種類を事前に知らなければ、防塵マスクなどの対策が難しい。現場入りの前に元請けと打ち合わせし、最新の安全対策や法改正を確認する必要がある。将来的な健康被害を無くすためにも、現場での情報共有の徹底が重要だ。
元請けがあずかり知らぬところで事故が起こることもある。例えば、一人親方が事前連絡なしで現場の下見に来るケース。特に下請けの出入りが多い現場では、注意が必要だ。
大工のある一人親方は、労働安全衛生法の改正について「同業者との会話で話題になったことはない」と話す。情報が乏しく改正法への関心は薄い。
危険区域を把握した上で現場に入ることで防げる事故は多い。来春に向けて、一人親方が安全に技術力を発揮できる環境づくりは急務だ。現場で働く全ての人の命を守るためにも、一人親方、元請け両者のコミュニケーション強化など創意工夫が求められる。