発生前提に職場全体で予防
職場環境において、ヒューマンエラーが生じた場合に、その対処方法は大きく二つあると考えられます。一つはヒューマンエラーを発生させた本人に原因があるとして、本人に今後の対策を期待することです。そして、もう一つは、同様のヒューマンエラーが生じないように職場全体で対策を講じることです。以後のヒューマンエラーの発生を減少させるためには、本人のみで考えさせるより、職場全体で考えた方が、その効果は広く行きわたります。
さて、以後のヒューマンエラーが発生しないようにする対策として、例えば担当者の確認が漏れていたときに、確認する担当者を増やすという対策もあれば、そもそも確認が不要となる体制を構築するという対策も考えられます。
急速な高齢化、少子化による人口減少が続いています。担い手が不足することにより廃業に追い込まれる地方企業の話も聞きます。担い手確保のために、企業にはどのような方であっても働きやすい職場をつくる必要が生じています。上述の例でいえば、確認が不要となる体制を構築することで、多様かつ少ない人員の中でも効率的な業務を行うことができるようになります。
いわゆる高年齢者雇用安定法では、企業は、希望者全員の65歳までの雇用を確保するために、①65歳までの定年の引き上げ②定年の定めの廃止③65歳までの継続雇用制度の導入―のいずれかの制度の導入が義務付けられています。
ところが、制度を構築するのは、高年齢者になっていない者のため、高年齢者のニーズや現状と離れた制度が導入されてしまった例を聞いています。
企業は、高年齢者の雇用を確保さえすればよいと考え、各労働者の個別の状況を考えずに、勤務を継続してもらいます。一方、高年齢者にとっては、加齢により身体機能は低下し、それまでと同様の成果を出すことは難しくなります。勤務時間数も変わらずに勤務し続けた結果、疲労の蓄積により配線エラーがあり、大災害が生じるところだったそうです。
高年齢者は、視力をはじめとした身体機能、注意力、体力などが低下します。厚生労働省は、高齢者が安心・安全に働くための企業の取り組みとして、エイジフレンドリーガイドラインを公表しています。「高音域が聞き取りづらい方のために警報音を中低音域とする」「段差を解消し、手すりをつける」などの具体的な取り組みが掲載されています。
「以後、このようなことが生じないように注意します」は対策ではありません。ヒューマンエラーが生じることを前提とし、その発生を予防する環境を構築することで、高年齢者に限らず、多様な人材が働きやすく力を発揮することができるようになるのだと思います。