「残雪の根開き」をイメージ

札幌駅前通地下歩行空間との接続部分に設置されたベンチ
8月に完成したヒューリックスクエア札幌1期(札幌市中央区北3条西3丁目)の地下空間に残雪をイメージしたベンチが設置された。白く丸みを帯びた柔らかいフォルムを持ち、老若男女の憩いの場になっている。制作したのは中屋敷左官工業(本社・札幌市中央区)に在籍する20代の左官職人たち。下地作りなど大半を担った坂口渉さんは「指定の場所に置いた時に設計のイメージ通りにできたと思った」と話し、達成感のある仕事となった。
ベンチは、春になると木の周りだけ先に雪が解ける「残雪の根開き」をモチーフとしたデザイン。7月中旬から2週間で仕上げるというタイトなスケジュールだったが、若手職人のみで挑んだ。
時間短縮のため、下地となるスタイロフォームに事前作成した原寸図を貼り付け、電熱カッターなどでできるだけ完成形に近づけた形で切り出した。その後、ポリマーセメントモルタルなどを塗り付け。こてだと難しい内側のR部分は、プラスチックの薄い板を曲げて塗り付けるといった工夫をした。最後に左官材のモールテックスで仕上げた。
他の仕事も抱えるため職人が入れ替わり作業したが、意思疎通や連携はスムーズにいき、工期内で無事完成した。

制作の大部分に関わった坂口さん
坂口さんは1996年、札幌生まれ。高校卒業後、自衛隊を経て、20歳の時に中屋敷左官工業に入社した。土を層状につき固めて壁などをつくる「版築」など左官ならではの技法を目の当たりにしたことをきっかけに職人の道にまい進。その後、「しこつ湖鶴雅別荘碧の座」の現場で日本を代表する左官職人の久住章氏と共に版築に取り組んだほか、最近はモエレ沼公園にある滑り台「スライドマウンテン」の改修で活躍した。
今回のベンチも「また変わった仕事が来たな」と思ったが、難しさは感じなかったという。中屋敷剛社長は「会社の未来づくりのため、新しいチャレンジは若い子にさせている」と話し、そうすることで技術が上達すると考える。
チャレンジを成功させるには、施工前に試行錯誤ができる時間と場所が大事。今回は事前に模型を制作し、強度や仕上がりを確認した。
こうした費用は工事原価に含めず、自社の研究開発費で賄っている。「お金はかかるが、若い子たちが新しい技術をつかみ、会社に蓄積されるため未来への投資にもなる」と中屋敷社長は話す。坂口さんは「問題点が出てくるので事前対策ができるのが大きい」とメリットを挙げる。
坂口さんの今後の夢は「今回のベンチのようにいろいろな人に使ってもらうものをつくる」こと。仕事を通じ職人の腕次第でどんなものでもつくることができ、顧客のイメージをかなえられる左官技術を伝える。