洋上風力、事業者と地元業者の合意形成欠かせず 

2022年12月26日 08時00分

事業選定終えた秋田・能代市 企業活力利用し漁業振興も

石狩市の石狩湾新港。道内は洋上風力発電基地として期待されている

 北海道では洋上風力発電所開発に向け、各種協議など下準備が進む。実現には地元の合意形成が欠かせないが、漁業者を中心に事業への不信感を拭い切れていないのが実情で、町の将来像検討など地域内の協議が求められる。一方、事業者選定を終えた秋田県能代市では、発電事業者の活力を利用した漁業振興など地域と事業者の共生策が挙がり始めている。(経済産業部・宮崎嵩大記者)

 洋上風力発電は、脱炭素を目指す世界的な潮流に乗り成長を続けている。自然エネルギー財団(本部・東京)がまとめた資料によると、世界全体の導入量(参考・原発1基で約1GW)は2011年の3.8GWから21年末には55.7GWまで増加。特に21年は新規導入量が21.3GWと飛躍的に伸びたが、このうちの8割が中国。これまで導入をけん引してきた欧州をしのぐ勢いで存在感を強めている。

 日本国内でも、19年の再エネ海域利用法施行を機に各地で計画が立ち上がる。同法は国が洋上風力発電所を新設可能と認める海域を「促進区域」に指定し、公募による事業者選定で海域占用を許可することで事業が可能となる。本道は石狩市沖など5区域が促進区域の前々段階となる「一定の準備段階に進んでいる区域」に整理されていて、各地で関係者間の事前協議や勉強会が進む。

 ただし、実証機を除けば国内一般海域での事業例はなく、漁業者を中心に不安が募る。洋上風力発電所誘致を目指す留萌市が3月に開いた勉強会では、漁業関係者が漁場の環境変化を懸念し「施設設置の余地はない」と真っ向から反対。他の候補地の住民からは「私たちの自然を壊して他の地域に送る電気を発電するのだろう。住民には何のメリットもない」という反対意見が挙がる。

 そんな中、促進区域指定後の事業者選定まで終えた秋田県能代市では、地域共生の答えを求めて関係者らが協議中だ。21年末に洋上風力発電事業者に選定されたのは三菱商事エナジーソリューションズ(現在は三菱商事洋上風力に業務を引き継ぎ)を代表とするコンソーシアム。

 同社は漁業者をはじめとする地元関係者に対し、グループ企業や協力企業を巻き込み、リソースを最大限に活用した地元海産物の積極的な流通促進・PRなどを提案する。既に秋田県の水産物を社員食堂で取り扱ったり、10月下旬に自社ビル敷地内で秋田県の物産展を開催したりするなど、漁業振興や地域産品の拡販に取り組んでいる。

 そのほかにも、公共交通の持続可能性などの地域課題解決に向けたオンデマンド乗合交通の導入をはじめ、発電事業以外にもさまざまな視点での共生策を挙げる。

 地元建設事業者とも協力する姿勢だ。2月には、三菱商事洋上風力が地元建設事業者を含む約100社が集まるビジネスセミナーに参加。各社に直接事業を説明するなど、発電所建設のノウハウを持たない地元企業にも波及効果を広げるため、企業間交流に取り組んでいる。

 本道では、どのような関係者間協議が求められるのか。全国の洋上風力発電候補地を回る資源エネルギー庁風力政策室の小林寛課長補佐は、発電事業に対する賛成・反対の前に「地域として実現したい将来像を描き、どのような漁業振興やまちづくり、産業育成を進めるべきなのか議論してもらいたい」と話す。その将来像に洋上風力発電事業が必要ならば「地域での合意形成は前進し、事業者選定時には期待に応える提案をする事業者が選ばれることにつながる」(小林課長補佐)。

 現状、道内5区域の促進区域指定は24年度以降とみられる。それまでに、まずは各地の関係者が地域の将来を見据えた議論のテーブルにつかなければならない。

 この記事の関連記事として北海道建設新聞2022年12月23日付2面には、三菱商事洋上風力渉外統括部長の小原秀和氏のインタビューが掲載されています。閲覧は新聞本紙か、e-kensinプラスの記事検索コーナーをご覧ください。

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