幕別ダム着工から四半世紀 試行錯誤で乗り越えた難工事

2022年12月26日 17時15分
困難を乗り越えて04年度に完成した幕別ダムは土木技術の知恵が詰まっている(帯広開建提供)

困難を乗り越えて04年度に完成した幕別ダムは
土木技術の知恵が詰まっている(帯広開建提供)

土木技術発展にも大きく寄与

 幕別町で農地に恵みを注ぐ幕別ダムが着工から四半世紀を迎えた。地盤の弱さを乗り切る道内初の工法を取り入れたアースフィルダム。完成間際、大地震が襲う苦難を乗り越えた歴史がある。農業の生産性向上を目指して事業に携わった技術者の記憶から、建設当時を振り返る。

 十勝管内は1戸30―50haの大規模営農が展開されているが、幕別町相川地区は20haほどで、所得向上へ高収益野菜の生産が急がれた。しかし系統的な農業用水施設がなく、帯広開建は国営かんがい排水事業で幕別ダムの整備を計画。1997年度に仮排水トンネルへ着工し、2004年度に試験湛水(たんすい)を終えた。タマネギ、レタス、キャベツが新たに作付けされ、14年には受益者の平均農業所得が95年比で5割増えた。

 建設地に選んだのは猿別川支流の稲士別川。ところが基礎地盤が低固結度の砂岩層主体で、水が浸透するとダムの保全に悪影響を及ぼす。当時、同開建帯広農業事務所で第1工事課第1建設係長だった北海道開発局OBの山田久幸氏は「ここで造るには止水をどうするかを最も議論した」と話す。グラウトが困難な中で発案されたのがブランケット工法だった。

 透水層を不透水性の土やアスファルトで覆い漏水を防ぐ。止水が困難なら地盤に浸透する時間を稼ぐという発想だ。本州の先行事例1件を参考に設計。ブランケット長と建設地の材料を生かし、道内初のブランケット工法による均一型アースフィルダムを採用した。

 掘削すると地下水が出るため、ディープウェルで地下水を下げながら施工。帯広農業事務所によると、堤体盛り立てで使ったのは珍しいという。軟弱な地層は仮排水トンネル整備にも影響。発破で掘削できないためシールド工法を取り入れた。

 施工は日本国土開発・住友建設(当時)・中山組共同体が受注。堤高26・9m、堤頂長335m、総貯水容量230万m³で、工事費は139億円に上った。中山組の記録によると「採取する材料、ブレンド比、撹拌(かくはん)、まき出し厚、転圧から密度、透水係数、含水比まで、かなり厳しい管理を求められ日常管理に苦労した」と残されている。

 試験湛水へ突入した03年、再び試練が襲った。9月26日早朝に十勝沖地震が発生。帯広農業事務所の第1工事課第1建設係長だった網走開建技術管理課長の泉孝治氏は自宅から現場へ急行した。「ダムは電波が悪くて携帯電話がつながりにくく、災害時優先電話やFAXでひたすら連絡を取ろうとした」と発災直後の記憶が鮮明に残る。

 地山ブランケット斜面の石が一部崩れたが堤体は大きな損傷を免れた。当時は泉氏の上司として山田氏も災害対応に奔走。「最大のリスクを体験できた。裏を返せばダムが地震に耐えられると証明した」と回顧する。
 仮復旧後に湛水を再開し、雪解けで挽回を図っものの目標に届かなかった。出水期前の6月に水位を落とす予定だったが、河川担当部局の協力で変更し貯水を続行。遅れを3カ月に抑え、04年10月に試験湛水を終えた。泉氏はダム構造への不安が尽きなかったが、浸透量は想定の10分の1となり、ブランケット工法の成功に胸をなで下ろした。

 着工前の岩盤検査でロックハンマーが使えず、針貫入試験や球体落下試験を検証した経緯もある。当時、本局農業設計課で岩盤検査を担当した留萌開建技術管理官の高橋俊博氏は「地盤を確認する手法も確立した」と指摘。農業への貢献にとどまらず、土木技術の観点でも数々の意義を残した。


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