名寄市内で33年ぶりの酒造り復活 夢膨らむ
名寄市で、もち米農家を営む竹部裕二さんは2019年にワイナリー「森臥(しんが)」を開設して4年目となる。冬季はマイナス20度に達する名寄でのブドウ栽培は困難を極めたが、市の協力も受けワイン製造を実現した。最北のワイナリーとしてブランド確立を目指し、33年ぶりの酒蔵造りがつなぐまちづくりに夢が膨らむ。(旭川支社・中村謙太記者)

19年に開設したワイナリー
埼玉県出身の竹部さんは、札幌の大学に進学し、バイクで各地を回った学生時代に北海道への愛着を深めた。
その後、会社勤めは合わないと退職を契機に北海道での就農を決意。移住先の名寄で妻と出会い、妻の実家のもち米農家を継いだ。
妻の関心がきっかけでワイン製造を決意。「あてはなかったが勢いで始めた」と当時を振り返る。
だが、温暖な気候を好むブドウを寒地で育てるのは難しく、病気や凍害でブドウの木が枯れてしまうこともあったという。
11年に弥生地区の牧草地を購入し、再度挑戦。品種は寒さに強いバッカスと小公子を採用し、凍害を防ぐため斜めに木を植えることで、積雪時に保温効果のある雪をかぶせやすくした。6月の霜で枯れないよう畑で火をたくなど対応に励んだ。
寒さ対策を凝らし、14年に初収穫。ワイン造りを学ぶため、岩見沢市のワイナリーで5年間研修したが、酒造免許の獲得が壁となった。
酒造免許の取得には年間で6kL以上の生産量が必要だが、「豊作の年でもぎりぎり届くくらい」と、大きな障壁となっていた。
ブドウ栽培に励む竹部さんを見ていた市は、弥生地区一帯を内閣府の構造改革特区に申請。18年に特区認定されたことで、必要生産量が2kLに緩和。免許取得の道筋が立ち、19年に念願のワイナリー開設を達成した。

困難を乗り越えワイン製造を実現した竹部さん
総合政策部総合政策課の宮﨑友介主査によると、市内には3件ほどの酒蔵があったが、1986年に全て消滅。森臥の開設により33年ぶりに酒造りが復活したことになるといい、「栽培が難しい名寄を選んでくれたことに感謝。市としてもできる限りの協力ができれば」と語る。
「農業は結果がすぐに出ないが(ワインは)必ず結果が出る」と竹部さん。22年産ワインは7500本ほどを生産した。今後は日本最北のワイナリーとしてブランド確立を目指す。