産業医や保健師活用を 企業のメンタルヘルス対策

2023年01月09日 08時00分

職場復帰できる環境を整えて

 全国の精神障害による労働災害の申請件数は2021年で2346件と、10年前と比べ2倍に増加した。人手を確保する上で心の病による社員の離職は大きな痛手。企業のメンタルヘルス対策がより一層求められる時代となった。専門家は、当事者に適切な対処ができる産業医や産業保健師を活用し、当事者が職場に復帰できる体制を整えるよう勧めている。(建設・行政部 大坂力記者)

 厚生労働省の第13次労働災害防止計画では、事業場の8割以上がメンタルヘルス対策を実施することを目標に置く。北海道労働局が調査した9月末時点の取り組み状況を見ると、従業員50人以上の全産業では84.4%に達する。製造業や建設業など取り組みが低調とされる特定9業種は30―49人規模の事業場も調べていて71.7%だった。

 これら取り組んだ事業場数を合算し、算出した達成率は78.5%。道労働局労働基準部の鈴木力健康課長は、特定9業種の数値が劇的に伸びる状況にないことから、「12月までに8割を達成するのは厳しい状況」と指摘する。具体的な取り組みは、「職場環境の把握と改善」が7割に達する一方、「心の健康づくり計画策定」が22.3%、「職場復帰支援プログラム作成」が20.7%、「パワハラ防止対策」が18.9%とそれぞれ2割程度にとどまる。

 建設業は30人以上の事業場を対象に調査したところ、全体の279事業場に対し239事業場が取り組み、率にして84.6%となった。他の産業に比べて進んでいる傾向にある。

 企業の健康管理をサポートするホスキュア(本社・札幌)は3段階の予防を踏まえてメンタルヘルス対策に取り組むよう呼び掛ける。

 丸山維乃社長によると、1次予防は「未然に防ぐ」こと。ストレスチェック制度の導入やストレスマネジメント研修など労働者一人一人がメンタルヘルスへの意識を高める。

 2次予防は「早期発見」。異変にいち早く気付いて相談できる職場風土を目指し、自発的に相談できるような窓口を設ける。

 3次予防は「職場復帰支援」。心の異変による休業開始から復帰までの流れを明確化し、ルール化する。休職による不安や焦りを緩和させる精神的なフォロー、復帰後も無理させないような仕事面のケアが大切になる。

 その上で、丸山社長は産業医や産業保健師の活用を勧める。これら専門職は、いわば学校にいる保健室の先生のような存在。体や心の異変を感じた時に対処策を検討してくれる。

 当事者の立場で見ると、会社内部の人間ではないため相談しやすく、じっくり話を聞いてもらうことで安心感が得られる。具体的な改善策の話し合いでは、会社側と当事者の間に入ることから直接交渉する必要もなくなる。丸山社長は上司や管理職にとっても「現場の話を直接聞いても本音を言ってくれないことがある。より本音に近い話が耳に入る」とメリットを挙げる。

 北海道建設業協会が会員企業を対象に調べた働き方改革推進に関するアンケートで、メンタルヘルス対策を聞いたところ、「職員からの相談対応の体制整備」が51.2%に上る一方、「メンタルヘルスケアの実務担当者の選任」は23.9%にとどまった。

 生涯を通じて5人に1人が心の病にかかると言われる現代で、これを理由に離職が進むのは企業とって大きな損失だ。専門的な知識で適切に対処できる産業医や産業保健師の存在に目を向ける必要がある。


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