迫る巨大地震

迫る巨大地震(中)東日本大震災の防災施設整備に着目

2023年01月17日 10時00分

避難ビルやタワーを整備 かさ上げ道路新設で被害軽減 

 東日本大震災が2011年3月11日に発生し、東北地方を中心に大きな被害をもたらした。かつての生活や経済活動を取り戻すべく、住民はもちろん、自治体などの行政機関も復興作業に追われた。釧路地域をはじめ太平洋沿岸地域の防災・減災対策を考えるため、被災地復興の取り組みや防災施設整備を追った。

 国際拠点港湾の仙台塩釜港を抱える宮城県と仙台市、海岸から平たんな土地が広がり1級河川の名取川が流れる名取市の取り組みに着目した。釧路市の釧路港と釧路川、大楽毛地区まで続く平野と似た地形だ。

 仙台塩釜港では、本震が発生した午後2時46分から約1時間後、約10.5mの津波が到来した。全施設にわたり50―100cmの沈下が見られ、津波によってコンテナや自動車などが港内に流出。漂流物が背後地に押し寄せ、震災がれきで埋まった道路が通行できなくなった。

 宮城県は、仙台塩釜港などを中心に防潮堤を新設。総延長25.7kmで、事業費338億円を充てた。その1区間の仙台港区では海抜4m、延長8750mを12―22年度で施工。事業費は75億3400万円を投入した。

 津波到来時にコンテナや係留していた船舶などが背後地へ流出し、被害を拡大した経験から漂流物を抑えるワイヤ製の防止柵を整備。17億6100万円を投じて、仙台港区を囲うよう6670mにわたって道路の中央分離帯などに設置した。

 仙台市は、震度5強―6強を観測。浸水域には津波避難ビル、タワー、学校施設屋上への避難階段といった13施設の整備を推進した。総避難可能人数は約4575人で、総事業費は23億6000万円。16年度までに完成している。

仙台市が整備した南蒲生津波避難タワー

 名取市は震度6強を観測し、海岸から最大5km地点までが浸水。最大浸水高は閖上(ゆりあげ)漁港の9m超で、被害も最も大きかった。同地区の土地区画整理事業では約30haの範囲で、3.9mの盛り土を実施し、市営住宅などを整備。内陸部への移転も含めて取り組んだ。また地区内には閖上小中学校を整備し、避難場所も確保した。

 宮城県内を南北に走る自動車専用道路の仙台東部道路が、津波を食い止めたことで知られる。仙台市と名取市はそれぞれ第2の防御ラインとして、海岸線と仙台東部道路の間を走る市道や県道でかさ上げ道路を新設した。

 仙台市は、市道蒲生東通1号線や県道塩釜亘理線に沿って10.2kmの東部復興道路を整備した。盛り土は6m実施し、幅員は7―9m。総事業費は297億円を投入した。名取市は、市道閖上南北線6.6kmを5m盛り土し、幅員は11.5mを確保。総事業費は111億円を充てた。

新たな防御ラインとなる仙台市の東部復興道路

 被災地では約11年の間に防潮堤や、かさ上げ道路、避難タワーなどのハード整備が着実に進められてきた。一時避難場所は、生命を守る上で特に重要な施設。また津波の力を弱め、少しでも避難時間を確保する考え方も避難施設の効果を高める重要な役割を担う。

 災害による被害を減らすためにも地域住民が持つ防災意識や日頃の避難準備は欠かせない。被災地では、災害の記憶を次世代に伝え続ける防災教育や、避難訓練も併せて取り組んでいる。

 釧路地域でも、浜中町役場や厚岸保育所などの高台移転や、避難ビル、タワーの計画が進む。津波を弱めて避難時間を稼ぐ防潮堤や、かさ上げ道路なども、地域の防災力を上げるために取り組むことができる手段の一つとして考えられる。


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 発生が危惧される日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震と大津波は、本道の太平洋沿岸地域に甚大な被害をもたらす。釧路・根室地域で人命と財産を守る防災・減災対策を検証する。(釧路支社・坂本健次郎記者)

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