牛乳を飲むと、お腹がゴロゴロして、軟便が出たり、下痢になってしまったりする人がいます。それが理由で、牛乳が苦手という人も。こういう人のほとんどは、乳糖不耐症と呼ばれる状態であると考えられます。乳糖不耐症は必ずしも病気というわけではなく、実は、日本人の半数近くの人で、程度の差はあれ、見られる現象といわれています。
そもそも乳糖とは何でしょう。牛乳に含まれている糖質のことで、牛乳200㎖当たり9.6gも含まれています。糖質ではあるのですが、お砂糖に比べると甘さは強くありません。牛乳のほんのりとした甘さは、この乳糖のためです。
乳糖は、牛乳だけでなく、ヒトをはじめ哺乳類の母乳のほとんどに含まれています。もちろん、母乳を飲む子供にとっては、極めて重要なエネルギー源なのです。ヒトの赤ちゃんに乳糖不耐症の症状は出ません。乳糖は赤ちゃんの腸内で消化され、栄養として完全に吸収されるからです。
ところが、離乳すると乳糖を消化する酵素の量が次第に減っていくことが分かっています。昔から牛乳をあまり飲まなかった日本人は、酵素が減ってしまった人が多く、乳糖を消化できません。そうすると、乳糖が腸の中に残り、水分を腸内にとどめる働きをするので、便が緩くなります。
腸内に緩い便がたまると、腸を刺激して下痢が起こります。下痢が起こるときは腸の運動が亢進(こうしん)しているので、お腹が鳴ったり、ゴロゴロしたり、結構強い腹痛が出たりするのです。
下痢で乳糖が出きってしまうと、症状は収まります。欧米人は乳糖不耐症の人が少ないのですが、離乳後も牛乳を飲み続けていて消化酵素が減りにくいためと考えられます。
乳糖不耐症は、牛乳を飲まなければ決して症状は起こらないので、牛乳を飲まなければいいだけです。チーズやバターなどの乳製品は加工の段階で乳糖が分解されていることが多いため、症状は起こりません。豆乳には乳糖がないので、代用できます。また、あらかじめ乳糖を分解させてある牛乳も売られています。
ごく一部の人は乳糖不耐症ではなく、牛乳のタンパク質が原因でアレルギーを引き起こす場合があります。お腹の症状だけでなく、ぜんそくやじんましんの症状が現れます。こちらは危険なので、よく見分ける必要があります。乳糖不耐症、よく知っておけば、安心です。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)