日本史は私の苦手科目の筆頭でした。「西暦+元号+出来事+人物名」のワンセットを時系列で覚えるのは、まさに苦行。特に「乱」「変」「戦い」のページは、多くの人がつらく苦しい時を過ごした様子をイメージしてしまうのですが、歴史の授業からは市民の姿もその日常も感じられません。一つ一つを取り上げていたら、1年間で終わらないことは想像できるのですけれど―。
専門学校で実技中心の講義をしていた私ですが、インテリア全般を担当したこともありました。退屈な座学は嫌なので、参加型の授業を目指し、知恵を絞っていました。その中には苦手なインテリア史もありました。
私自身が受けた「インテリア史」の授業は、あまり良い記憶がありません。「この授業、仕事に必要?」と生徒たちに思われたくないので、私自身がインテリア史の面白さを探すことから始めました。
教科書のインテリア史のページには、それぞれの時代を代表する椅子の絵が載っています。その絵を時系列に並べてみると、服飾史に登場する人たちが、その時代の椅子に腰掛けるシーンが想像できます。なかなか良いアイデアでしたが、服飾史の授業がなかったので、この合わせ技はボツになりました。
年表になった椅子を眺めていると、19世紀までと20世紀以降に大きな違いがあるのが分かります。19世紀中頃までは、時代や国(地域)でくくられる「様式」があり、500年近い時の中で、それぞれの時代のクラシックスタイルの椅子が誕生しました。それは現代でも根強い人気です。
一方、20世紀以降は、たった80年ほどの間に、驚くほどたくさんの「名作椅子」が生み出されました。その一脚一脚に名前があり、デザイナーと共に誕生記録が残されています。
名作椅子の誕生には下地となる出来事がありました。一つは、18世紀後半からの産業革命です。都市人口の増加によって椅子の需要も増加。これまでのオーダーメードでは生産が追いつかず、既製品の椅子を展示販売する仕組みが生まれました。貴族趣味の装飾よりシンプルなデザインが好まれるようになりましたし、軽くて使いやすい椅子が必要とされました。一般市民の家には、椅子を引いてくれる執事はいないので―。
もう一つは、19世紀後半のトーネットの曲木椅子の登場です。軽量で動かしやすく、美しい曲線の椅子は今も現役です。ノックダウン方式の採用で梱包(こんぽう)をコンパクトにし、世界中に運ばれました。加工技術の向上、新素材の開発、輸送方法の改良などが、良い椅子の生産を後押ししたのです。
椅子はデザイナーのアイデアだけで誕生するのではなく、さまざまな要素や状況の組み合わせで作られていると、インテリアの歴史は語っています。
個々の椅子のストーリーは興味深いのですが、授業では触れる時間がありませんでした。「もしかしたら、日本史の先生も歴史のうんちくを語る時間がほしかったのではないか―」と今は思います。歴史は深く探るほど面白い。そう感じるこの頃です。