迫る巨大地震

迫る巨大地震(下)避難所など含め複合化を

2023年01月18日 10時00分

積雪寒冷地考慮した取り組み必須 福祉機能など集約、維持管理手法検討も

 道が2022年7月に公表した日本海溝・千島海溝沿い巨大地震の被害想定で、甚大な被害が見込まれる釧路地域。1960年のチリ沖地震などを教訓に防災施設整備を進めてきたが、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策を推進する特別措置法の補助率引き上げを契機に、自治体は整備の動きを加速させ、緊急事業計画の策定作業を急ぐ。

 釧路市は、大楽毛北部にある公共施設を南部に集約し複合化する。1棟は老人福祉施設、児童館、生活館などを移転し、もう1棟は西消防署大楽毛支署の移転を軸に、津波避難所も備えた施設を検討。大楽毛小の屋外階段も併設する考えで、年度内に事業内容を固める。

 釧路町は、昆布森地区で昆布森支所と漁業協同組合などを複合施設にして、高台移転を計画。約20億円を投じて、セチリ太地区に避難タワー3、4棟を建設する。23年度に複合施設の基本設計、避難タワーの実施設計に取り掛かる方針だ。

 浜中町は、以前にも津波被害を経験し、霧多布地区で防潮堤かさ上げや役場庁舎の高台移転を完了。今後は新川西、暮帰別地区などの避難困難地域で避難タワー4棟の新設に着手する。総事業費は約13億円を試算し、23年度は基本設計や地質調査を開始する。

高台移転した浜中町役場と新設した避難道路。
霧多布地区を囲うように整備された防潮堤

 厚岸町は、厚岸消防署や厚岸保育所などの高台移転に取り組んできた。港町地区の生活改善センターを避難ビル機能を持った集会場に建て替える。規模はRC造、2階、延べ約1200m²で、総事業費は10億円。23年度に実施設計を進め、24年度に着工する。

津波対策で21年度に移転した厚岸保育所

 白糠町は、西庶路地区で100―150人規模の避難タワー新設を計画。さらに庶路地区に避難道や避難艇を整備する方向だ。23年度予算に関連費用を盛り込むため、緊急事業計画をまとめる。

 道は、22年12月に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災計画案をまとめた。死者数は、日本海溝モデルで最大約14万9000人、千島海溝モデルで最大約10万6000人。10年間での減災目標として、31年度までに8割を減少させる。

 雪や寒さに配慮した避難路整備、海岸施設の耐震化・かさ上げ・積雪寒冷対策、建築物長寿命化、既存建築物老朽化対策、土砂・地盤災害・液状化対策を推進する方向だ。

 釧路市の蝦名大也市長は「津波避難施設の機能を持った複合施設ならば、普段は公共施設として利用できる」と話す。寒冷地では冬季の利用も想定しなければならず、普段から使いなじんでいたら、避難時の誘導や維持管理がしやすくなる。

 特措法における施設整備への補助率は上がったものの、複合施設建設のハードルは高い。基準水位より下に位置する避難施設以外の部分は、用途が変わるために補助が適用されず、建物全体の建設費の補助とはならない可能性がある。

 国は、観光施設などに対する都市再生整備計画事業など、他の補助事業と組み合わせて取り組むことで、地域に必要な施設を最大限実現することも視野に入れる。

 いつ起こるか分からない巨大地震。その対策という難題に、国や道、市町村は、それぞれの役割で立ち向かい、取り組みを進めている。寒冷地対策や維持管理などもクリアできるような施設を造るためには、さまざまな事業を組み合わせた計画が求められる。そのためにも整備費用補助の適用範囲を広げることが一つの有効手段と考えられる。


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 発生が危惧される日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震と大津波は、本道の太平洋沿岸地域に甚大な被害をもたらす。釧路・根室地域で人命と財産を守る防災・減災対策を検証する。(釧路支社・坂本健次郎記者)

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