深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 秀岳荘 小野浩二社長

2023年02月03日 10時00分

小野浩二社長

社員の「遊び」、SNSで

 新型コロナウイルスの感染拡大が本格化して3年。個人消費が冷え込んだこの期間に、登山・アウトドア用品販売の秀岳荘(本社・札幌)が過去最高水準の売り上げ規模を維持している。小野浩二社長(54)に好調の秘けつを尋ねると、豊富な専門知識を持つ社員の育成や、SNSの積極活用が浮かび上がった。

 ―コロナの3年でどんな変化があったか。

 当初は行動制限が何度も課された上、交通機関の減便もあって、人々が遠くへ出かけにくくなった。すると全国各地の山を目指す登山客の動きがなくなり、登山用品の売り上げが激減してしまった。ところが入れ替わるように空前のキャンプブームが起こり、この部門が大きく伸びて登山の落ち込みを補ってくれた。

 ―緊急事態宣言で営業自粛を強いられたが。

 最初の年、春の大型連休に店を開けられず、売り上げを1億円以上落とした。その直後、挽回策として公式LINEで10%割引クーポンを配布したところ効果が絶大で、休業の減収分を取り戻すことができた。

 当社のLINEは定期的にクーポンを届けるだけで、うるさくないためか一度友達登録してもらうとブロックされる率が非常に低い。2021年2月期は終わってみれば売上高約24億円で過去最高になった。翌期は微減だったが横ばいの範囲内。23年2月期も同規模で着地しそうだ。

 ―店のスタッフが自分のアウトドア体験をよくSNSに投稿している。

 実体験からのアドバイスや商品選びが、お客さまに喜んでもらえている。当社では業務とプライベートが明確には分かれない。社員にいろいろな経験をしてほしくて、スキーでも登山でも、休日に遊びに行くときのガソリン代や高速料金を会社が出す制度を設けた。条件は社員3人以上の参加と、行った先の様子をSNSで発信すること。私もよく社員と一緒に出かける。

 社員は知識と経験を増やし、SNSを見たお客さまがそのスポットや遊び方、また社員その人に興味を持ち、店に来てくれる。楽しそうな様子が人材募集にもプラスに働く。誰一人損をしないやり方だ。SNSは極めて重要で、当社は人事評価項目にSNSの発信実績を入れているぐらいだ。

 ―人材教育のため他に取り組んでいることは。

 職位に関係なく、社員が仕事のためになると判断した本には会社がお金を出すようにしている。自然に関するものでも、POPの書き方のような本でもいい。

 商品の仕入れは売り場の担当者の仕事だ。発注の権限は私にも店長にもなく、契約社員を含む現場社員の判断に任せる。売れないときは、なぜ売れなかったのかを考えて次につなげればいい。ノルマは設けない。失敗していいといつも言っている。

 ―現在3店舗。デベロッパーなどから出店の誘いが来るのでは。

 その通りで、札幌の主要な商業施設はもちろん地方都市や首都圏のお話もいただく。でもお断りしている。新店を出せば人が必要になるが、質の高い社員を確保するのは難しい。今の店の魅力をさらに高めて、遠方のお客様にも足を運んでもらえるようにする方がいい。

 ―いつまでに売り上げ規模いくら、といった目標はないのか。

 目標は立てない。変わっていると言われても、当社はお客さまが喜んでくれることを一つ一つやっていくだけだ。そんな考えでやってきて、私が社長になった11年前と比べて売り上げは1.5倍に増えた。おかしいとは思わない。

 (聞き手・吉村 慎司)

 小野浩二(おの・こうじ)1968年4月生まれ、訓子府町出身。札幌大経営学部卒。専門商社で法人向けシステム営業などに従事した後、97年に秀岳荘入社。2001年に現在の北大店店長となり、08年に専務、12年6月に社長に就任した。

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