「もったいない」が原動力に
丸越家具リペアは、札幌市厚別区に店舗を構えていた「家具の丸越」をルーツとする家具の修理・リフォーム会社。元社員の酒部研一さんと真由美さんの夫婦2人で立ち上げた。家族の思い出を象徴する「家財」をいつまでも引き継いでもらうための伝承者として役割を担いたいと考えている。
家具の丸越は、1960年代に卸会社として創業。丸越越後屋家具店を小樽に立ち上げ、北海道と九州の家具を橋渡ししながら高度経済成長期の家庭のリビングやキッチンを華やかにさせた。その後、札幌市厚別区に大型店舗を設け、家庭用家具やカーテン・カーペットの販売で札幌市民のホームスタイルを支えた。
研一さんは86年に家具の丸越に入社。18歳から道内外の国産家具にさまざま触れ、アフターケア需要の高まりとともに2001年から修理部門の仕事を担当するようになった。
「当時はバブル景気から家具の入れ替えが盛んで、作りのしっかりとした趣のある伝統家具を捨てて、はやりの輸入家具を選ぶお客さんも見受けられた。そのときの〝もったいない〟という気持ちが起業の原動力になった」と話す。
家具の丸越は建物の老朽化などを理由に2月20日で社員を解雇。現在は店舗営業を終了し、得意客のアフターケアを中心に事業を続ける。酒部さん夫婦はオーナーの承諾を受けて「丸越家具リペア」を立ち上げ、修理・リフォーム会社として再始動することを決断。真由美さんが代表を務め、研一さんはいったん会社から離れ、作業場回りを整理するなどしながら本格始動に向けて準備を進めている。
木製家具やスチール家具の修理のほか、要望によって新品のカーテンやカーペットなどの販売も手掛ける。修理はソファやダイニングチェアの張り替え、テーブルの塗装や天板カットなど。クルーザーの椅子やキャンピングカーの内装など特殊な家具にも要相談で応じる。
店舗は持たず、客先に出向いて依頼品を預かり、奇麗・頑丈に直して届けるまでが仕事の流れ。修理完了まで状態を写真データで共有しながら順を追って作業を進める。
家具は、家や車に比べて家族代々で引き継いでもお金や労力がかからず、一家の〝あの頃〟を手軽に残せる記録媒体としての機能がある。中でも伝統家具は良い材料を使っている上に基本設計が変わらないため、50年以上たっても流行に左右されず色あせない。
「家具は一家のバトンのようなもの。良い例がベビーチェアで、祖母から母、娘と受け継いで70年ぐらい使い続けている人もいる。家族の歴史をつづるのが丸越リペアの仕事」と研一さん。
家具の丸越で修理部門に従事していた30代の頃は「質より量」の大量消費社会だったが、丸越家具リペアとして歩み始める50代の今は「SDGs」に代表される循環型社会にある。「夢は、修理品を見たお客さんの子どもが5―10年後に大人になったとき〝酒部さんに頼みたい〟と思われること」と話している。