寒地土木研究所寒冷沿岸域チームの岩﨑慎介研究員らは、オホーツク海の海氷減少に伴い、同海域の波の強さが10年ごとに12―15%増大しているとする報告をまとめた。不透明だった海氷と波浪の関係性を提示。今後の港湾施設の設計や維持を検討する上で重要な指標となることから、この結果を踏まえて将来的な波浪の増強傾向を見通し、沿岸の対策に役立てたい考えだ。

海氷と波浪の関係を示した岩﨑研究員。防災への貢献が期待される
気象庁によると、オホーツク海の最大海氷域面積は1970年の統計開始以降、10年ごとに5.6万km²減少した。その要因として、地球温暖化が影響している可能性もあるとしつつ、明確な評価にはさらなるデータ蓄積が必要としている。
岩﨑研究員は、日本や欧州、米国の各気象関連機関が持つ過去40年間分のデータ群を分析した。いずれもオホーツク海で海氷が発達する冬季(12―2月)で、海氷が減少するのに伴い、波浪が強くなっていることを確認した。
海氷減少が波浪を強化する仕組みとしては、①氷が海水面を覆う面積が減り、障壁として機能しなくなる②海面気圧の低下を招き海上の風速を増加させる―という2つの要因がある。地球温暖化が続けば、海氷の減少も進行する可能性がある。
岩﨑研究員は、今後強力になる恐れがある波浪から地域住民を守るため、「波浪が将来どうなるのか、沿岸域に基づいた研究成果を出したい」と、沿岸域に限定した分析などにスピード感を持って取り組む姿勢だ。
道内の港湾施設を整備・管理する北海道開発局港湾建設課の担当者は気候変動対策について「全国の動きを見ている。(道内の)将来的な波浪増大の見通しをハード整備にどう反映するかなどは今後検討することになる」と話し、開発局が中心となり協議を進める考えだ。
海氷は、日本周辺ではオホーツク海でのみ見られる。例年11月上旬にオホーツク海北部から凍り始め、次第に流氷として南下。北海道に到達するのは1月中旬で、2、3月のオホーツク海は75%が海氷に覆われる。
オホーツク海の海氷に関する研究はこれまで少なく、氷と波、風の関連性を定量的に示したのは今回が初めて。海氷は津波時に波と共に襲来し、沿岸域の脅威となるなど、地域防災に深く関わっている。実効的なハード、ソフト対策を実施するためにも、さらなる実態の解明が求められる。